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オークション
カノープスは標的の必死の懇願を鼻で笑った。
「これから俺に命を奪われるってやつは、例え一秒前まで自分で死のうとしていたやつでも、『待ってくれ』というものなんだよ。人間なんてその程度なんだ。楽に死のうとする。楽な死に方なんてないのにな」
気にするな、やれ、と部下たちに顎で指示する。が、部下たちが腕を振り上げた瞬間、カノープスはある一つの余興を思いついてしまった。やっぱり、もう少し待て、と大声を出す。部下が目を見開いて、慌てて手を下ろす。
「なぁ、お前」
と、カノープスは標的を指さした。
「自分の命に幾ら出せる?」
人の命に値段が付くのは、同業者だらけのカノープスたちの社会で、当たり前のこと。だったら、標的が自ら金を払うと言う事態が有り得たって良い筈だ。
「助かりたいなら金を払え。依頼人がお前を始末してくれと依頼して来た金額と、お前が今払える金の金額を比べて、お前が払う金の方が多ければ、俺は依頼人の方を始末する」
縄で縛られ、ぶるぶる震えていた標的が、必死になって金額を口にする。一億円、と彼は断言した。どうやら、依頼人よりも金払いの良い客だったようだ。
カノープスは再び顎で部下に、人探しを指示する。
案外と忘れがちだが、人の命を奪おうと考えること自体、命懸けだ。意志を持った時点で、この世界に安全なんてことは一つもないけれど。
因みに、依頼人が此処に連れて来られた時、カノープスは第一声で、こう問うのだ。
「なぁ、お前、自分の命に幾ら出せる?」
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