僕は猫ではないのだが

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僕は猫ではないのだが

 僕の名は猫きゅー。 名を名乗る程でもない生き物である。 便宜上名乗り口上はあげたものの僕は僕として生まれてからこれまで人間界で猫という範疇に入れられている事実には少しばかり不本意なところもあるが、そんなことは当の猫にしたら知ったところではないしその方が僕にとってもきっと平安なことなのだ。 今早急な問題であるのはこの人間界で六畳半という広さに仕切られた猫の額よりは広い一室の中で一人、空腹でまた動けなくなっている僕の飼い主さまを救うことである。  という訳で僕は若く清楚で綺麗かつかわいらしい人間の美女に変身していつものように食糧を求めてお買い物に行くのである。  僕の飼い主さまは全くもって生きるつもりがあるのかないのがわからない頓珍漢な男なのである。 それでいて一丁前に好みがうるさいから始末に置けない。  僕に性別というものはないと思うのだが、人間界で極力目立たずに往来を歩いてお買い物をするには人間の男か女に変身しなければならない。 老若男女の中から最も適した姿に身を変えるわけなのだが、これがだいぶめんどくさかった。  買い物は人の姿をしてちゃんと服を着てお金さえあればなんとでもなった。  問題は飼い主さまなのである。 格好いい人間の男の姿をして意気揚々と部屋に入りこむと飼い主さまからお巡りさんを呼ばれて追い出された。実に理不尽。  では人なるものの愛玩動物らしくかわいらしい人間の幼女に変身して部屋に忍びこむとこれもお巡りさんが来た。お巡りさんも人間で犬ではないのに僕は困ってしまった。  色々考えた挙げ句年頃は人間で言うと20歳前半、黒髪で清楚で目鼻立ちがよく整っていて乳房が大きくもなく、さりとて壁のように小さくもなく程よい丸みを帯び、体型も肥満体ではなく、さりとて痩せた猫のように貧相ではない健康的でやや肉感のある食べ頃(?)の人間女に変身して帰ったところ、飼い主さまは口笛交じりに心良く僕を部屋に迎えた。  僕は無性に腹が立った。
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