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人腹ふくるれば則ち哲する
人間界は色々深い問題があるのであろう。
そういうわけで魚や魚や魚を鍋に入れて煮る。人間界の母親も自分の嫌いなものは子供達に餌をあげないそうだから生物としては正しい。ゆえに僕も正しい。
飼い主さまも特に文句は言わない。
そうそうお金はどうしたか?というと僕はとてもお金を持っている。なぜなら魚や魚を買う以外そうそう無駄遣いをしないからである。人間界のいにしえのことわざで『猫に小判』というものがあるのだが、それはまったく正しい。
ちなみに『泥棒猫』も人間側からすればきっと正しい。けれど猫の世界では盗まれるほうが悪い。
にゃにゃにゃ。
という訳で空腹で死にかかっていた筈の飼い主は美女の姿の僕と美味しいお魚で元気を取り戻す。
一つ屋根の下に妙齢の男と女。
何も起きない筈もなく。
とはいかない。
「恋々しますか?」
と問えば飼い主さまは
「いやあそういった類いのものは後々責任が問われますので」
とおっしゃる。
そうなると人間界の決まりごとの範疇で考えると僕の父は無責任だったということになる。
「あなたさまは無責任なお人なのですか?」
と問うと
「『無責任』の責任というものがあります。野良猫のようにはいきません」
とおっしゃる。ほうほう。飼い主さまには飼い主さまなりのお考えがあられるようだ。
「煙草、いいですか?」
「はい」
と、僕が猫の姿の時にはいつも過ぎた放題燻らせている煙たい草を飼い主さまは人間女姿の僕にいちいちことわりを願い出るのである。家主の好きにすれば良いのに。
そのまま小一時間何を話すということでもなく飼い主さまは自分が吸っている煙草の煙を眺めているんだか居ないんだか。まあ僕もおいとまして猫の姿に戻ってまた帰ってきたら事は終わりなのだが、それでは手間をかけてせっかく変身した甲斐がないのでこのまま僕も時を過ごす。
こういう時間も僕は嫌いではない。
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