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11月第3水曜日
日本との時差、九時間。陽が落ちるのも早くなった。
カーテンの閉まった窓の向こうは暗闇に沈んだロンドンの住宅街。音も動きもなく、世界が止まったように思えて気が滅入る夜だ。
「……」
煌々と光る画面でカーソルが焦れたように点滅する。
保存のショートカットを押す。一文字も増えてないのだから必要ないのに。
画面右下の時計が十時を示す。
私は額の前で手を組み、そっと目を閉じた。
どう落ち着けば。どう考えて、散らかった言葉をまとめれば。
あの人は未完成の原稿とどういう風に向き合うのだろうか。
もしここにいたら。
彼は今どうしてる……?
瞼の裏に余裕の笑みを浮かべる男性の姿が浮かんだ。
その絵を塗りつぶすように目を閉じる力を強める。
違う。考えるのはそれじゃない。
私は遊びに来てるのではない。
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