30人が本棚に入れています
本棚に追加
脚本家デビューからもう四年目。でも、今回で二度目の留学に費やした時間が長いせいで実績は活動期間に見合うとは言い難い。不安定な職と家族には遠巻きにされ、同世代の同業者に意識されてもいない。年も三十手前。
力をつけて追いつくために勉強し直しに来てる。
彼は……ライバル。ただ、より仲良くしていて……気のせいか、優しく接してくれる一人なだけで。
その優しさを実感したいと思った瞬間、背後にノックと声があった。はっとして目を開ける。
「舞子、いる?」
慌てて手を解いて画面を睨む。願い空しく文字は増えてない。
「いる。今、書いてる途中だから」
「わかった」
足音とともに声が遠ざかる。
私は息をついて保存のショートカットを押した。
声の主は、同じ脚本課程を受講する現地学生でフラットメートのケイティ。講義の後の遊びもやっとお開きのようだ。
ケイティは遊びに出られる。私を今必死にさせてる学内コンテストに彼女は応募しないと決めてるから。
使用用途は俳優課の卒業見込みの学生のためのショーケース作品。
俳優は八人、男女四人ずつ。上演時間は二時間程度。全ての登場人物に同等の重要度をつけること。
求められるのは効果的な当て書き。演者全員を等しく魅力的に見せられて、観劇に来るだろうスカウトにその実力をアピールできるもの。
採用されたら確かな実績になる。
締切は二週間後。
卓上カレンダーをめくり、印を確認する。
その頃は十二月。ここで過ごす最初で最後のクリスマスシーズン。
最初のコメントを投稿しよう!