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『舞子、ロンドンは初めてよね?』
昨夜、確かめるようにケイティに訊かれたのを思い出した。
そうだと答えるとケイティは笑顔で続けた。
『再来週の木曜日の夜、空いてる?』
季節相応の誘いだった。夜六時、トラファルガー広場にクリスマスライト――日本式に言うならイルミネーション――を一緒に見に行くという。
また保存のショートカットを押す。
文字は一向に増えない。
日本は何時だろうか。
ノートパソコンの画面を消えない程度に伏せて、机に置いたスマートフォンを手に取った。
罪悪感は一瞬。指はほとんど無意識に同じメッセージの糸を辿る。
柴山京介さん。
日本で順調に活動を続ける脚本家で、今も放送中の連続ドラマで忙しくしてる。
友人とは、言っていい人。
留学中も連絡は途絶えてないけど、私のことを待ってるとは限らない。
そっと画面を撫でる。
柴山さんは仕事も個人もSNSは使っていない。近況を知りたい時は直接尋ねるしかできない。
それがどれだけの勇気を要することなのか彼は意識してるだろうか。
家族でも特別な女性でもない……心配かける資格のない自分が送れる内容を思考する。
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