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バックミラーに映る後続車、その助手席に座る女性を認識した時、涼介は閉ざされていた重い記憶の扉が開いていくのを感じた。
五年前、同棲をしていた元彼女だ。間違いない。
顔つきはそれほど変わってはいないようだ。童顔で幼さを残した彼女の顔は五年経っても綺麗に見える。
澁谷梓、別れた時が二十五歳だったはずだから今は三十歳か。
運転席にいる女性は友人だろうか。
こんな奇跡が起こるなんて。
年末の昼下がり、多くの家族が帰省をしているのだろう。
渋滞に巻き込まれ、この状態ならば抜け出すのに二、三十分は掛かるはずだ。
隣では妹が寝息を立てている。
車内には微かにFMラジオが流れていて、ムッシーというラジオDJが軽妙なトークを繰り広げていた。
頭の中に浮かぶ過去の記憶。それらがどんどんと溢れてくる。梓と過ごした時間は濃密でかけがえのないものだったと彼は思っている。
どうしようもない彼のことを支えてくれた梓には感謝してもしきれない。
彼女の楽しそうに笑う姿をミラー越しに眺めながら、涼介は回想に浸っていた。
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