若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい

prologue Singapore

　なんか、口のなかが痛いくらいに塩辛い。
　飲み込んでしまった海水をボコッと吐き出して、長谷(ながたに)祭花(まつりか)――マツリカはけほけほと咳き込みながらゆっくりと睫毛を震わせる。
　自分よりもおおきな少年が、日本語で「大丈夫か！？」と背中をさすってくれていた。真っ黒な髪と黒金剛石(ブラックダイヤモンド)のような双眸がマツリカの黝(あおぐろ)い瞳を射る。
　そうだ、あろうことか自分は溺れたのだ、日没間近のこの海で――……