chapter,1 New York

17/42
371人が本棚に入れています
本棚に追加
/322ページ
「十五年前に起きたアフリカ沖のケミカルタンカー事故でかなり叩かれたからね。死者も出ちゃったし、会社としては忘れたい汚点になっているじゃない。うちみたいな子会社の子会社にまで黒い噂が流れてるんだから」 「そうですね……」  順風満帆に見える鳥海海運だが、一度だけ信じられない事故を犯したことがある。  アフリカ沖で発生した悪天候下でのケミカルタンカーと貨物船の衝突、座礁事故だ。衝突によりケミカルタンカー内部の重油が漏れ出し、強風に煽られたコンテナとともに流され一時的に海を汚染したとされる。漏れ出た重油はすぐさませき止められたため、被害はそれほどでもないと会社は責任逃れをしていたが、衝突時にひとりの船員が海流に飲み込まれ行方不明となり、後に遺体があがった。一等航海士――マツリカの遺伝子上の父親である長谷(ユウ)である。  ――あの事故には裏がある、ってお母さんは言っていたけれど。どういうことなんだろう。
/322ページ

最初のコメントを投稿しよう!