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1章 奇妙な縁
この怪奇との出会いの発端はこうだった。
その日も俺は博打に負けて金に困っていた。
むしゃくしゃしながらチョロチョロと人が姿を現し始める黄金色の往来を影を長く伸ばしながらとぼとぼ歩いていた。
新しい夜明け。
もうすぐこの辺りにはシジミ売りの声も聞こえ出すだろう。その眩しさが心底嫌になり、とっとと下宿に帰って用事を済ませてふて寝しようと心に決めかけたそんな時。
たまたま行きあった知り合いに声をかけられたから店仕舞いを始めようとしていた屋台を見つけて蕎麦を集ることにした。
そいつの名前は土御門と言う。
土御門は明治10年に神田錦町に開かれたばかりの東京大学に何の因果か同学年で入学し、同じ理学部の学生として予備門に編纂された時に隣の席に座ったのが縁となった。それが運の尽き、以降、何故だか学内で見掛けられるたびに声をかけられた。
土御門は御華族様の血を引く見るからに高貴な身の上とひょうひょうとした佇まいを持ち合わせたなにやらいけ好かない男だ。何故俺のような貧しい武家崩れのヤサグレに声をかけるのかさっぱりわからない。
あちらは文明開化の香りのするノリの効いた白シャツに高そうな生地の羽織袴。俺は着古した綿の着流し。まとうものからまるきり違う。共通点がまるでない。人前で声をかけられるとざわりと困惑の空気が流れるほどの差異。
けれども土御門はそんな空気など頓着せず、俺を見かければ『お元気ですか』などと意味もなく声をかけてくる。そんな間柄。
それが何故だか今、俺の隣で蕎麦を啜りながら話しかけてくる。
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