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「シュはその病と体質のほうがよほど『妙』です。それにシュ程度のポルターガイストなどより私の祓いの力や山菱君の体質のほうがよほど『妙』ですよ」
「む」
「まぁ自覚はないのでしょうから仕方がないのかもしれませんけどね。そういえば宿題の答えは出ましたか?」
「宿題? いつまでもわからないもの、か?」
「えぇ」
いつまでも、わからないもの。
わからなくても取り込んで、理解してしまえば人となる。
なんとなく酒が回ってきた気がする。ぼんやりとしてきた燗を手酌で盃に注ぐ。
ふいにあの長屋の光景が思い浮かぶ。
どこまで続くかわからない黄泉の路。果てからやってくる亡者の群れ。あれは人ではない。わかる気がしない。
「死んだ奴か?」
「それも一つですね。だいたいは一方通行ですから。それでもシュのように意思疎通ができればなんとかなるかもしれない。いつまでもわからないものは理解する意思がないものです」
「理解する意思がないもの?」
「そう。ただ山菱君を餌としか見ていないもの。話を聞く意思がそもそもないもの。それは見極めなければなりません」
「ちょっと待て。何故俺なんだ」
「そりゃぁ山菱君が生贄だからです。私は山菱君を生贄にして化け物を集めるんですから」
生贄って本当に生贄なのか。
俺はこいつのために生贄になるのか? それはやはり御免こうむる。
「やっぱさっきの約束はなしだ」
「駄目ですよ。もうお約束頂いたのですから果たして頂かなくては。でも私も鬼じゃぁございません。だからお仕事をして頂くのは山菱君がお仕事をしたい時だけで結構です」
「そんな時が来るか馬鹿!」
「そうですねぇ。やはり親睦を深めねばいけないと思います。哲佐君とお呼びしても宜しいでしょうか。私も鷹一郎で結構です」
「おい、人の話を聞け」
気がつくと香ばしい味噌田楽を肴に酒は進み、へべれけになってきた。
否応はなく俺の一存はいつの間にかスルーされ、鷹一郎の舌先三寸に打ち負かされていく。
結局、俺が再び鷹一郎から仕事を請け負うのはそんなに先のことじゃなかった。
畜生!
了
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