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”数百年前、第四次世界大戦を経てアメリカが世界を統一した。その際、アメリカが以前から秘密裏に組織していた「ヒーロー」が世間に公になった…”
当時は反発やら驚愕やらで世界は混乱したらしいが、正直ピンとこない。それくらい、今やヒーローは俺達の生活の一部になっている。なんなら、自分はそのヒーローに食わせてもらっている。
下北沢の東通りをずっと真っ直ぐ進み、突き当たりを右に折れた路地に俺の店はある。
ヒーロー専門の洋服屋
これが俺の生業だ。彼らの中には体質上、大衆向けの服が着られないものがいくらかいる。そんなヒーロー達の私服をオーダーメイドで作るのが仕事だ。
秋晴れの今日も、常連客が来るのを店を開いて待つ。
「いらっしゃい!…おお、類じゃねえか。久々だな。寒くなってきたからアウターでも買いにきたか?」
「ういっす兄貴。…あー、今日はちょっと違うんだ。そのなんていうかさ、、」
いつも快活に注文をする類だが、今日は歯切れが悪い。なんだ、また酔っ払って服を壊しちまったのか?
「…来月さ、結婚することになったからさ、それ用の服作ってくんね」
…驚きのあまり言葉が出なかった。仕事と酒にしか興味がない奴と思っていたが、恋人がいたなんて。まして、来月には結婚?展開が急すぎて頭の処理が追いつかない。
「…お、おお!結婚か!!そりゃめでたいな。一丁前のやつ作らねえとな!」
そう言うと、類は無言で襟足を触る。気恥ずかしい時に出る癖だ。今日は出会ってから一番というくらい触っている。
ネットで検索をかけながら、二人でどんなものがいいか話し合う。類もいつもの調子が戻ってきたようで、せわしなく細かいオーダーをつけてくる。ただ、その顔はいつもより暖かさに包まれていた。
「…よし、これで決定だな。ウェディングドレスなんか作ったことねーけど、絶対似合うの作ってやるからな」
「おう、信頼してるぜ兄貴。出来上がったらまた受け取りにくるわ」
そう言って店を後にする類。その後ろ姿は今までのやんちゃさは無く、一人の美しい女性の凛とした背中があった。
そうか。彼らは人生の大きな岐路を迎えても、変身するときと同じくらい、こんなにも普段とは見違える姿になれるんだな。
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