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隙間からもくもくと湯気がもれ出し、私は意を決してその扉をゆっくり横へ引いてみた。すると大量の湯気と共に、中から全身褐色の肌の背の高い男性が現れる。
首筋や肩、二の腕や胸、脇腹や腹部に適度な筋肉が付いていて引き締まっており、首には弾丸モチーフの銀のペンダントが輝いていた。全身が濡れていて、男性的な美しさに思わず声を失う。
「要ちゃん、今起きたとこ?」
「え?」
「大丈夫か? 二日酔い」
そう言われて、昨夜のことを無理やり思い出そうとして、頭がズキンと痛んだ。
(そうだ私……昨日Coffinで飲んでて……)
『Coffin』というのは毎週金曜の夜に必ず行く、行きつけのBarのことだ。現在は週末にそこで美味しいお酒を飲むため、仕事を頑張っていると言っても過言ではない。
(お店に珍しく他のお客さんがいて……名前は確かシルバ……)
それがこの、褐色の肌に銀色の頭髪の男の名だった。店で名刺を貰い、ナイトクラブを経営していてDJもやっているという自己紹介を受けた。それでDJネームが『シルバ』だ。
シルバはこちらを気にする素振りもなく、洗面台上部の戸棚から黒いバスタオルを取り出し、淡々と自身の体を拭いた。無造作にゴシゴシと髪を拭くと、銀色のソフトモヒカンが蘇る。
(そうだ……昨夜はあの後、シルバさんと飲み直したんだった……)
「次シャワー浴びる? サッパリするよ」
「それより、大きな獣がこっちへ来ませんでした?」
シルバの動きが止まった。よく引き締まって硬そうなお尻と、筋肉質かつ長い足をこちらに見せつけたまま。
「大きな獣?」
「そう。さっきその獣にペロッと首筋を舐めらて……ほらここ、ちょっとまだ湿ってる」
そう言って首筋を指差すと、全身を拭き終わり腰にバスタオルを巻いたシルバが、無遠慮にずいずいと近づき、あっという間に廊下の壁際まで追い込まれた。終いには顔横の壁に片腕を突かれて、鼻と鼻がもうすぐぶつかってしまうかと思うくらい顔が接近する。
「要ちゃん……もしかして、誘ってる?」
「え? 何で?」
「俺、今シャワー浴びたとこだし。要ちゃんのその恰好……」
そう言われて初めて自分がどんな格好をしているのかに気づいた。下着しか付けておらず、今頃両手で隠しても時既に遅し。二十歳そこそこの生娘ではないにしろ、まだギリギリ二十代女性としても無防備過ぎる行動だった。
「私、昨日シルバさん……と?」
「何もしてないよ。要ちゃんかなり酔ってたし。家がわからなかったからとりあえずうちに連れてきたけど。服は『暑い!』って言って自分で脱いでたし、俺のベッドですぐ寝てた」
「す、スミマセン……」
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