寝ても醒めても

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(「皿を回す」って言ってたけど、レコードでDJするって意味だよね? 本当に棒でお皿を回すとかじゃないよね?)  何故かお正月によく見ていた着物姿の二人組を思い出し、思わず吹き出す。ナイトクラブなんていうオシャレな場所で、そんな姿をしたシルバが突然皿回しをしたら、それはそれで見てみたい。 「あぁ~~、気になる。もう行くっきゃないか!」  そう口に出すと、何だか今まで落ち着かなかった気持ちがスッキリとした気がした。食べ終わったボロネーゼのお皿をシンクに置くと、クローゼットでなるべく男性受けしない服を選ぶ。 (気になるから行くだけ。心の平穏を取り戻すだけ)  何度も自己暗示するように唱えて、私は服に袖を通した。 * * *  十九時になると、店頭入り口上部にある蛍光ピンクとイエローで書かれた『Silver bullet』というネオン看板が光り出す。繁華街の一番端とも言えるような、静かなのかうるさいのかわからない場所の地下で営業しているのが、シルバのナイトクラブだった。  この店は基本、月・火曜日以外で営業をしているが、シルバがDJをするのは土曜日のみと決まっている。彼はあくまでもオーナーであり、店長は別にいて経営の殆どを任せているので、土曜以外は気が向いた時だけしか店に出ないという神出鬼没ぶりだ。  階段を降りてすぐ左側にカウンターがあり、ここでまずドリンクを一杯注文するのがこの店のルールだ。ここでは様々なお酒とちょっとしたおつまみを提供していて、あとは店内に終始流れる音楽を聴きながら、いつまででも店に居ていいし、好きな時に帰っていい。ちなみに曜日によって流す曲のジャンルやイベントが違うので、曜日によって様々な盛り上がりを見せていた。  店内は薄暗いが、テーブル席とダンススペースが一対一の割合で存在する。店奥がダンススペースで、正面には大きなスクリーンステージがあり、そこでは音楽に合わせてイメージ映像が流れる。そのスクリーン脇にターンテーブルがあり、そこでDJが店内にご機嫌な曲を流していた。 「昨日は満月だったから、絶対遊びに来てくれると思って待ってたのに」  露出が高く濃いめの化粧をした女性が、ターンテーブルを弄るシルバに近づいてそう声をかけた。赤いマニュキュアが綺麗に塗られた人差し指で、シルバの筋肉質な二の腕に「の」の字を書く。 「来てくれてたのか。ありがとな。でもそんなに溜まってない時もあるんだよ、ゴメンな」
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