寝ても醒めても

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 シルバにとって、何度か寝たことのある女性だった。勿論交際しているわけではなく、互いに割り切った関係だ。そういう相手としかシルバは寝ない。  彼女に自分の正体を明かしていたわけではないが、「満月の夜になると性欲が溜まる」とだけは伝えていた。実際は性欲ではなく、なのだが。 「ざんね~ん。満月の夜しか遊んでくれいしぃ~」 「ゴメンて。お詫びに一杯おごるから、今夜は楽しんでってくれよ」 「しょうがないなぁ……。でも、ありがと♪」  そう言ってセクシーな女性客はその場を去り、この店の常連仲間の元へと戻って行った。彼女にとってもシルバは遊び相手の一人だ。何も執着していないのが後腐れなくて都合がいい。でも店には何度も来てくれる常連客であり、大事な友人だ。  シルバにとってこのような光景は、ここ数十年ほど見慣れた景色だ。人間よりはるかに長生きする彼にとって、人間との出会いやコミュニケーションは、光の速さであっという間に過ぎていく。 「いつもなら願ってもない申し出なんだけどな……」  そう呟いて、シルバこと銀次(ぎんじ)は要のことを思い出していた。  昨夜は別種族であるCoffinのマスターが、満月の夜をどう過ごしているのか気になって、久々に店へ顔を出してみるだけのつもりだった。しかしそこで偶然出会った要は、数十年も前のつまらない自分の過去に対し、同情するような優しい女性だった。  彼女に興味が湧いたからか、それとも満月の夜がそうさせたのか、「飲み直さない?」と彼女を誘い、自分の欲望を忘れるくらい一緒にいるのが楽しくて、ついつい長時間付き合わせて酔い潰してしまった。  要を自分の部屋へ連れ込むつもりは全く無かったが、まさか部屋に着いてすぐに服を脱ぎだすとは。ベッドに寝かせると首に腕を回され、ベッドに引き入られてそのまま彼女は寝てしまった。 (まぁ、俺もそこで一緒に寝ることなかったけどな)  でもすっかり気に入った相手が下着姿で自分のベッドに寝ていて、あまつさえ自分をベッドへ引き入れてきたら、それに抗える男がいるだろうか? 全世界の男性諸君に問いたい。それを言い訳に、自分も服を脱いで寝た。  満月の夜になると高まる人肉への食欲を、今までは性欲を満たすことでなんとかカバーしていたけれど、昨夜は要を抱きしめた瞬間に幸福感が身体を駆け巡り、欲望が全て満たされたような不思議な感覚に陥った。 (だからか? 油断して今朝化けの皮が剥がれたのは……)  まさか寝ている間に銀狼の姿へ戻っているとは思わなかった。しかも背中を撫でられる気持ち良さに興奮し、思わず彼女の首筋まで舐めてしまった。慌てて風呂場へ逃げ込み、シャワーで頭を冷やして人間に化け直したが、もう一歩遅ければ完全に正体がバレていただろう。
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