走り出す

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 ああ、あたまが痛いし、クラクラする。  どうしたのかしら、貧血かしら?  ワタシは、気がつくと広いショッピングモールの中をふらふらとさまよっていました。具合が悪くてふらふらしているワタシは、周りを歩いている人に助けをもとめようと近づいていきました。でも、ワタシが近づくと、何故かみんなワタシを見て、あわてて走り出すのでした。  *** 「うう、本官に向かって来るんじゃない。止まらないと撃つぞ」  ワタシは、助けを求めてショッピングモールに隣接する交番に倒れ込むように入りました。すると、中にいたお巡りさんは椅子から驚いたように立ち上がります。そして、ワタシに向かって威嚇するように大声を上げて、腰からピストルを抜き出して、震えながらワタシに銃口を向けてくるのです。 「おまわりさん、どうしたのですか? 市民に向かってピストルを向けないでください。ワタシは具合が悪いんです。お願いですから救急車を呼んでもらえますか」  ワタシは、ピストルにかまわずおまわりさんに向かって助けを求めようとさらに近づきました。  すると、突然──  パン! パン!  驚いたことに、おまわりさんは、ワタシに向かって発砲してきたのです。  ──う、う、痛いじゃないですか。  なんでお巡りさんが善良な市民に向かって発砲するのでしょう? お巡りさんどうしちゃったの!  ***  って、あれ? 撃たれた腕から出血してないし、落ち着いてみると撃たれた場所の痛みが無いのです。やっぱり貧血気味で具合が悪いからかしら? と思いながら、ワタシは交番の中にある鏡を何気なく覗き込みました……。  ──そこに映っていたのは。  まぎれもない、正真正銘のゾンビだったのです。鏡の中にいたのは、健康な時のワタシの顔じゃなくて、ゾンビ映画でよく見る、あの顔だったのです。  ホホがこけて、顔は青ざめて。何よりも顔のあちらこちらの皮膚が剥がれ落ち、肉はただれ、綺麗な髪の毛は抜け落ちて、頭皮はズル向けて頭蓋骨もチラリと見えています。  そうか、思い出したわ……。  ワタシはショッピングモールに休日のお買い物に来ていました。そして、突然現れたゾンビに噛みつかれてしまったのです。なんとかそのゾンビからは逃げおおせたけれど、その後で突然気分が悪くなって倒れてしまったのでした。  いつのまにか、おまわりさんは交番から逃げ出して、ワタシの周りには人っ子一人いなくなっていました。    ああ、気分が落ち着いて来たら、なんとなくお腹も空いて来ました。  そういえば、あのショッピングモールには、ワタシを見て逃げた人達がまだ残っているのかしら?  あの人達を思い出すと、無性に美味しそうな気がしてきました。彼らを捕まえて、すこし筋張った肉付きの良いももの肉とか、ぷるぷるするホホの肉とかに、ガブリとかぶりついたら、なんて気持ちいいのかしら。  ワタシの頭の中は、もう彼らを食べたいという思いで満ちていました。どうやら、人間の時の理性よりもゾンビの欲望に支配されて来たようです。  考えれば考えるほど、口から唾液が滴って来る。ああ、もう我慢できないわ。ジュルジュル。  ワタシは、逃げ遅れた生肉たちを求めて、ショッピングモールに向かって走り出しました。 (了)
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