変身失敗

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 今すれ違った彼女は、間違いなく泣いていた。  いつも大人しくて、穏やかで、女の子らしい彼女。  そんな彼女が泣いているのを放っておくなんて、男のやることじゃない。  そうだ、ここで、僕の男らしい優しさを見せれば、もしかして僕は彼女のヒーローに…… 「とうっ!」  僕はジャンプして方向転換すると、走っていった彼女を追いかけた。 「ねえっ! どうしたの!? 大丈夫!?」  大声で叫ぶ僕を、廊下を歩く人たちが何事かと振り返る。  やっと彼女に追いついた僕は言った。 「どうしたのッ? 大丈夫!?」  彼女は振り向き、涙の滲んだ目で、キッと僕を睨んだ。 「なんでそんな大声で、人に恥かかせるの」  僕の大声のせいで、周りの人がみんな僕と彼女を見ている。 「え? 恥なんかじゃないよ。女の子はさあ」 「女とか男とか、関係ないの。泣いてるのを見られるなんて、私にとっては恥なの!」 「そんなことないったら。何があったのか、僕に話して……」  僕はいきなり往復平手打ちを喰らった。 「いいかげんにしてよ! あんたなんかに話すこと何にもないよ! 自分では優しいつもりかもしれないけどさ、そういうの、デリカシーがないっていうんだよ」  一気に言うと、彼女はまた走り去った。  僕はヒーローにはなれなかった。  そして彼女は、大人しい女の子から、強い女に変身してしまったみたいに見えた。
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