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「先輩、どこ行きます?」
先輩はそのまま「先輩」か「遠野先輩」で良いとのことだったので、そう呼ぶ。
先輩は「うーん」と逡巡したのち、口を開いた。
「みちるは映画、観る?」
「年に二、三本くらいですかね」
「そうなんだ。観たい映画あるんだけど、大丈夫そう?」
「もちろんです!」
この格好で誰かと一緒に映画を観られるなんて思わなかった。
俺は意気揚々と映画館に入り、それぞれチケットを買い、上映時間の少し前に席に着いた。
上映をわくわくと待つ先輩の横顔をそっと覗き見る。
通った鼻筋に、優しげだがきりっとした目元。黒のショートヘアをうまく生かして、男性らしく見せている。耳にはシルバーのフープピアス。
うむ、イケメンだ。
改めてそう思うと同時に、ゆっくりと明かりが消えていった。
それから約一時間半後。
俺は頭の中に疑問符を浮かべながらエンドロールを眺めていた。
やがて上映は終わり、場内が明るくなる。
「みちる、大丈夫?」
席を立つ先輩に、「はい」と答えてシアターを出た。
それは死体と青年が一緒に旅をするという、不思議で少し哲学的な作品だった。
正直、どうリアクションすればいいのか迷う。
けれど先輩は、
「面白かったー!」
とパンフレットを購入していた。
「先輩、これ、面白かったですか?」
「うん。みちるは?」
「正直よくわかんなかったです」
「そっか」と先輩はつぶやき、囁くように続ける。
「孤独と秘め事。それが人間たらしめるものなのかもしれないね」
「難しいっすね……」
そう言う俺に、先輩は曖昧な笑みを見せた。
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