孤独と秘め事

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映画館の隣にはゲームセンターがあった。 ガヤガヤと様々な音のする店内を、俺と先輩は特に目的もなく歩く。 やがて一台のクレーンゲームの前で先輩は足を止めた。 俺もその台を見ると、そこには青いリボンを首元に巻いた白うさぎのぬいぐるみが横たわっていた。 名前はそのまま「りぼんうさぎ」。昔からいるキャラクターだ。 「懐かしいですね」 俺は目を細める。 先輩は少し驚いた風に、 「知っているの?」 と聞く。 「はい。小学生のころ女子の間で流行っていて、俺も欲しかったんですけど……」 「じゃあ、取ってみよう」 そう言ってゲーム機にお金を入れる。 「先輩、得意なんですか?」 「いや、全然」 苦笑しつつ、先輩はクレーンを動かす。 「ここだ!」 と先輩はボタンから手を離した。 アームが開き、うさぎの頭をつかむ。 一瞬頭が持ち上がったが、すとんとアームから逃れてしまった。 「惜しかったですね」 先輩は悔しそうにうなっている。 失笑しつつ、 「次は俺が」 と先輩と場所を代わってもらう。 ゲーム機にお金を入れ、クレーンを操作する。 「こういう時は、首を狙うんですよ」 アームは首をつかみ、うさぎを持ち上げる。 「落ちるなよ」という祈りが届いたのか、アームはそのまま穴まで移動し、景品を落とした。 俺はりぼんうさぎを取り出し口から迎える。 両腕で抱くとちょうどいい大きさだ。 先輩は感心した表情で、 「凄腕の暗殺者みたいだね」 と言った。 俺は思わず吹き出してしまう。 先輩も笑いながら、りぼんうさぎの頭を撫でた。 「これは、先輩に」 「いや、ぼくよりみちるが持っていなよ。せっかく取ったんだしさ」 微笑む先輩に、俺は「はい」と返して、りぼんうさぎを抱きしめた。
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