スラッシュ遺伝子

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 古谷から聞いた話よりも興味のある事柄が光己にはあった。鬼のような化物に襲われていた転校生の小早川だ。  彼女はあの化物も、光己と古谷が変身している姿も見ている。小早川がそのことを第三者に話してしまうのは、古谷の言う「組織」にとって困ったことになるんじゃないか?  昼の休憩、光己は古谷に話しかけられる前に、小早川の元へ向かった。 「小早川さん、ちょっと話したいんだけどいいかな?」  少し驚いた表情の小早川だったが、何も言わずについて来た。 「糸田くん……だよね。どうしたの?」  問いながらも、光己がなんの話を持ちかけるのか分かっているようだ。 「昨日の化物のことだよ。どうしてあんなのに襲われたんだ?」  化物と聞いた瞬間に、小早川は泣きそうな表情になってうつむいた。 「私にもわからないの……。教室に残っていたら、急にあの大きな化物が襲ってきたの」 「そうか……。転校する前の学校で何かあったとか、心当たりはない?」 「うん。特に変なことはなかったと思う。とにかく、あんなの初めてだったから、驚いちゃった」 「うーん……でも、転校してすぐの君を襲ったってことは、そこに理由がありそうなんだよね」 「…………」  小早川は困ったような表情で光己を見つめていた。何も事情を知らない被害者に聞くようなことではなかった。慌てた光己は早口になる。 「で、でも大丈夫だ! 俺が小早川を守るから!」 「……本当に?」 「当たり前だろ。俺と古谷が変身したら、あんな怪物も一発のパンチで沈むんだ。まぁ変身するためには古谷の協力が必要だけど……そこはなんとか説得してみる」  不安がすべて吹き飛んだように、彼女はほほえんだ。まだ彼女のことはよくわからないけれど、口数が少ないことは分かっていた。こんな風に話せる人ができただけでも嬉しいのかもしれない。  満足して教室に戻ろうとした光己の手を掴んだ。  古谷の手とは違う、暖かくて柔らかい。  振り返ると、小早川は蠱惑的な笑みを浮かべていた。  どうしたんだ? もしかして、この短期間で光己に特別な気持ちを抱いたのか? あり得る話だ。光己は小早川の命を救ったのだし、こうして彼女に優しく接している。 「ねぇ……もし、私と一緒に変身できるとしたら、どうする?」 「変身って……昨日、古谷とやったような変身か?」 「そう。あなたと私が、くっついちゃうの」  く……くっついちゃう!?  もう光己の頭の中に、昨日の変身の姿は思い浮かんでいない。脳細胞の隅々まで肌色とピンク色だ。 「興味ある! どうなっちゃうんだ?」  光己の手が汗ばんでくる。小早川はそれを嫌うことなく、むしろ大事そうにもう片方の手を添えて包み込んだ。 「じゃあ……スラッシュって言って」 「すらぁっしゅ!!」  光己が食い気味で叫ぶと、光が発せられた。それはどこか禍々しく、昨日の変身よりも強い光だった。
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