スラッシュ遺伝子

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 全身がピンク色のモンスターの出現に、学校中が騒然となった。誰かが非常ベルのボタンを押し、けたたましい音が響き渡っている。  これはもしや、と思った光己が校舎を駆け回ってようやく見つけることができた。  光己と小早川が変身したピンクモンスター。全身が水風船のように膨張している。 「小早川さん。やはりあなたは敵組織でしたか」  転校初日に怪物に襲われた小早川のことを、古谷は怪しいと思っていた。 「概ね予想通り……ですが、想定よりも早く光己さんに接近しましたね。彼にはゆっくりと丁寧な説明をしたかったから、まだ意思確認が終わっていないというのに」  ピンクモンスターはブヨブヨの腕を振り回す。それは攻撃にも、苦しみもがいているようにも見える。 「光己さん、聞こえますか? あなたはずいぶん人を信じやすく、惚れやすい人のようですね」  ピンクモンスターの顔が一層険しくなった。この声は光己に届いているようだ。 「いえ、あなたの性格を批判したわけではありません。称賛しているんです。スラッシュ遺伝子による変身は心を許していない他人同士が簡単にできるものではないのですよ。友情や愛情が強くないとスラッシュ遺伝子は活性化しない」  古谷は懐から注射器を取り出して、自分の腕にそれを打った。その手をそのまま差し伸べる。ピンクモンスターは動きを止めた。 「もう一度だけでいいんです。僕を信じて、この手に触れて、「スラッシュ」と念じてください。そうすれば、あなたの願いを叶えて差し上げますよ」  しばらくの間、ピンクモンスターは固まっていたけれど、やがてゆっくりと大きな腕を動かして古谷の手に触れた。  また光が産まれる。
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