これがほんとのチキン野郎?

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 日本にやって来て低コスト低賃金で雇われ、劣悪な労働環境で過酷な労働を強いられる東南アジアの外国人技能実習生たち、或いは東南アジア諸国に拠点を持つ日本企業の工場に於いて新型コロナウィルスに感染しないよう隔離するべく宛ら監禁されたように働く東南アジア人の労働者たちのお陰とも知らずにいい思いが出来、あれも食べたい、これも食べたいといい大人が子供みたいに言うようになった。白い米が食べられるだけで幸せを感じられる時代もあったが、今は美食の時代、飽食の時代。ところが新型コロナウィルス第六波によるパンデミックが起こって、一転、飢餓の時代になった。感染者が増大する国内よりも東南アジア諸国等、主要な輸入先である海外で増加、それも爆発的に急増し、その各国のサプライチェーンが混乱または崩壊して供給ショックが起き、食料品のみならず品薄状態に陥ったのだ。  剰え日本の主食用穀物自給率は59%だが、飼料用を含んだ場合の自給率は28%と半分以下に低下し、食肉、鶏卵、乳製品等は国内で生産された食材であっても飼料等の供給を海外依存しているから輸入が絶たれれば、生産が出来ない品目が多数出て来る。その最たる例が鶏卵だ。鶏卵の国内生産比率は96%だが、飼料の輸入がなくなると、自給率は12%にまで激減する。鶏卵を生産する為に牧草や麦わら等の粗飼料の27%、穀物やパン屑や豆腐粕等の濃厚飼料の86%を海外からの輸入に頼っている為だ。  品薄で消費者物価指数が跳ね上がって取引量が激減し、世の中全体に金が回らないから賃金も暴落し、日本は強烈なスタグフレーションに襲われ、金があっても生活必需品を十分に買えず、今まで何不自由なく暮らして来た者たちが貧困者宛らに物に飢える中、コケーコッコッコと鶏の鳴き声が聞こえた。すると、俺の周りにいた友達らが一斉にその声のする方へ走り出した。俺の後方からも声のする方へ向かって走って行く者がいる。俺が卵を産ませるんだ!と叫びながら半狂乱になってそいつは過ぎ去って行った。  俺はそいつを追っかけて行くと、鶏を追い詰めたものの捕まえることが出来ず鶏の周りに皆が群がりながら必死に一人一人、鶏を捕まえようとしたり捕まえるのを邪魔したりしている所へそいつも加わった。その中を鶏が駆けずり回っている。何というすばしっこさ。正に陽炎稲妻水の月で、これは全く捕らえ難い。もし捕らえたとしても雌鶏でなかったら、これがほんとの骨折り損のくたびれ儲けだ。  俺は鳴き声で多分雄鶏だと思ったから別に興味は湧かなかったが、鶏の鳴き声を聞いただけで卵だ!卵が一杯食えるとでも思ったのだろうか?余程、卵に飢えていたんだな。つい前まではスタバでハムエッグサンドを食べながら皆で笑い合ってたのにな。それがいざとなると、友達同士でもあさましく醜い争いをするようになるのか、見ていて嫌気が差すよ。全く哀れだなあ、あの体と鶏冠の大きさからしてやっぱり雄鶏に違いないもの。  飼い主が探しているかもしれないのにまさか鶏肉にして食おうってんじゃないだろうな。どう捌こうってんだよ。第一、生き物を屠るなんて俺にはそんな惨いこと恐ろしくて出来ないよ。と思いつつ俺もチキンが好きだけどな。これがほんとのチキン野郎?
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