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プロローグ:とある冬の日の風景
「透子いる? ああ、いてくれた、良かった」
あたしの背中の方から躊躇いがちにかけられた声。振り返らなくても誰だかわかる、クラスメイトのあやめだ。夕日に沈む部室にあたしを訪ねてくる人なんて、あの子に決まっている。あたしは振り返って彼女を出迎えた。
「いいタイミングだったかも。
これから 御社さまのお世話いくところだったから」
あたしが部室からいなくなる前にと思って急いできたんじゃないだろうか。クラスでは物静かで落ち着いた印象の彼女が、今はすこし息を弾ませていた。それでも大きな音を立てないように、丁寧な手付きでで引き戸を戻して部室に入ってくるあたり、あの子の真面目な性格がよく出てると思う。
「今、帰り支度しちゃうからそのへんで少し座って待っててよ」
ぱっとしない見た目のあたしと違って、あやめは凛とした雰囲気の美人だった。すこし古風でみんなからは不評なセーラーカラーの制服をきっちり着こなしている。背中まで伸ばした黒髪と丁寧に切りそろえられた前髪で楚々とした雰囲気があるけど、キリッとした切れ長の瞳がそんな印象を否定する。そんな子だった。
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