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今日、私は学校を休んだ。
体の調子が悪いわけではない。どこも痛くないし、体温も計ってはいないけどおそらく平熱だ。
ただ、心の問題。お母さんに伝えると「なんだ。そんなこと。あんたはもう。十四歳にもなって」と冷たくあしらわれたけど、私にとっては大問題。
時間を確認する。もう、授業は終わってるな。
私はベッドでうずくまり、右に左にゆらゆらと揺れながら、朝から数えて何度目か分からないため息をついた。
「ちゃんと学校行きなさいよ。季帆」
朝、仕事に出る前に私の部屋を覗いて、めんどくさそうに言ったお母さんの顔が思い浮かぶ。
わかってる。分かってるんだけどさ……。昨日、幸佳を傷つけて、怒らせてしまった顔を思い出すと、どうしても体が重くて動けない。気力が湧かない。
どうしようもない思考にふらふらと揺さぶられていると、階下でキャンキャンと子犬の鳴く声が聞こえた。聞き慣れた鳴き声。これは、うちのアンがかまってほしいときの声だ。
アンは去年から家で飼っている二歳の柴犬で、私が可愛いから飼いたいと言ったのもあって、基本的には私が世話をしている。家族が出かけている時は、一階リビングの大きなケージで留守番している。私が部屋にいるのを察して、呼んでいるんだろう。
家族だと思っていたのに、私が落ち込んでいるのもお構いなしに吠えて、所詮は犬なのかと呆れてしまう。少しは気を使ってよ。
大きくため息を吐いてからのそのそと立ちあがり、一階リビングのアンのケージへと向かった。
しかし、そこにアンの姿は見当たらず、ただもぬけの殻のケージだけがあった。
おそらく、出掛けにお母さんが鍵を閉め忘れて、アンが脱走したんだろう。よくあること。まったく、人にはちゃんとしなさいって言ってたくせにさ。
ぼやきつつも放っておいてイタズラをされるのも嫌なので、名前を呼びながらアンを探す。
ふと、裏庭に出るためのガラス戸の開く音が聞こえた。 物干し竿だけで手一杯の小さな裏庭に続くガラス戸は軽くて、鍵を閉めていないと時々アンが自分で開けて出ていってしまう。
今回もそうだろうと、私は「アン?」と呼びながらガラス戸の部屋を覗いた。
そこで、私は固まってしまった。
ガラス戸を開いていたのはアンではなく、見知らぬ女の人だった。
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