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トラブルの発端
アルティミットロボ Onigoroshiとは、人気アニメ「宇宙防衛戦士アルティミットロボ」と「鬼ごろしの刀剣」がコラボレートしたことで生み出された映画のタイトルであり、その主人公ともいえるロボットキャラクターだ。ただでさえ古くから根強い人気のあるアルティミットロボが鬼ごろしの刀剣とコラボする。しかも鬼ごろしの刀剣の中でも屈指の人気を誇る獄門寿一郎の必殺技である猛虎炎武斬を繰り出すとなったら老若男女心躍らない者はいないほどで、今年の秋に公開された映画の興行収入はあっという間に300億円を超えた。
アルティミットロボ Onigoroshiがプラモデルになる。この知らせを聞いたファン、特にアニメに釘付けになっていた子どもたちは小躍りした。メーカーには問い合わせが相次ぎ、玩具店には予約が殺到した。サンタへのリクエストもあっという間に増え、現時点で12000件近くにのぼっている。
そう。12000件にのぼっているのだが……。
「支部長、大変です。アルティミットロボXZ Onigoroshi ver確保できません」
青い顔をした副長のハンスからこの報告を受けたのは昨日のことだった。
「どうしてじゃ?」
「どうしてもこうしてとありません。予約の解禁からたった15分でどこのお店でも売り切れになってしまい」
「その……最近のなんじゃその……ええと…………インターネットショッピングなどでもダメなのか?」
「はい。どこもかしこも品切れになってしまいまして。当方が確保できたのは、4000体余りです」
「それは困ったの。原因は分かりそうか?」
「……調べてみます」
ハンスは額に冷や汗が滲む中、ブルースクリーンと睨めっこを始めた。何度かマウスをクリックし、キーボードを打ち込み、検索をかけているうちに、ハンスはひとつのサイトへと辿り着いた。
「……支部長。原因が判りました。そして……入手方法も」
「おっ、判ったのか。どれどれ?」
ハンスの声を聞きニコラスがやってきて画面を覗き込んだ。そこには赤文字で
「アルティミットロボXZ Onigoroshi ver 未使用未開封 12月13日発送 35000円」
と書かれていた。
「……プラモデルとは、こんなに高いものだったかの?」
ハンスは首を横に振り、言った。
「これは恐らく、転売で利益を得ようとする者の仕業です」
ここ数十年の間でインターネットがインフラとして当たり前のものになった。それに伴ってフリーマーケット用サイトが少しずつ普及し始め、多くの人にとって物品の売買の敷居が下がった。今ではスマートフォンを通して一般人同士が物品の売買をすることも当たり前になってきている。買いたい人と売りたい人がインターネット1本で繋がることができるという意味では便利な時代になったのだが、その一方で利益目的で人気商品を買い占め、高額で転売するという輩が出てきていることが社会問題化している。勿論、転売で利益を得ようと目論む者が出ることは今に始まったことではない。人気アーティストが出演するコンサートのチケットなどが何万円、何十万円単位で取引されることは今までもあった。だが転売を行う人数も、転売が行われる件数もその頃に比べたら明らかに桁違いだ。3万円のゲーム機に10万円の値段がつき、2000円のプラモデルが4万円で売買され、しまいには元々二束三文のゲームのカードが5万円まで高騰する。このようなことが日々起こっており、転売をなりわいとする者に対し「転売ヤー」という蔑称が生まれたくらいだ。
「支部長、申し訳ありません」
ハンスはそう言って深く頭を下げた。
「起こってしまったことは致し方あるまい」
「どうしましょう……」
「ううむ…………」
寛容な言葉をかけたものの、ニコラスの眉間には深い皺が寄った。
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