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「あのう。その前に、部長、ちょっといいですか?」
開発者は言いにくそうに声をあげた。
「なんだ? 腹でも減ったのか?ここは貧乏研究所だ。予算は全部、研究費につぎ込んだ。飯代はないぞ」
「いえ、そうじゃくなくて。あのう言いにくいのですが、部長の頭から、髪が消えています。猫パンチのときに、爪が髪に引っ掛かったようです」
開発者は眼を点にしたまま、言いにくそうに答えた。
「なに?!」
驚いた部長は頭を触った。
年齢にしては、やけに髪がふさふさだった頭は、つるつるになっていた。
「俺のヅラが!」
驚いてすぐに周りを見ると、脂ぎった頭頂から解放されて、ほっとでもしたのか? かつらは床で、すやすや? と寝ていた。
部長は慌ててかつらを拾い、被りなおした。
「あのう、部長。かつらは前と後が逆じゃないですか?」
開発者はまた言いにくそうに指摘した。
「あ?」
部長は動揺した顔で髪を、いやかつらを整えていた。
整髪すると落ち着きを取り戻した部長の真っ赤だった顔は、怒りの表情になっていった。
「てめえら。口封じをしてやる!」
逆上した部長は側に置いてあった斧を掴んだ。
「部長は本気です」
代弁機が答えてきた。
手にした斧は、部長が外でまき割をしていたときの凶器、いや斧だ。原油高騰で燃費代を節約するため、この研究所では薪を使っていた。
「部長、落ち着いてください」
開発者は必死になだめようとした。
「いや許さん。おまえら、さっ処分してやる!」
部長は血走った眼で斧をもちあげた。
「部長は本気です。我々を殺害する気まんまんです」
代弁機が答えた。
「部長、落ち着いてください。この機器が全世界に売れれば、僕たちは巨万の富を得ることができます。部長も億万長者になれます」
開発者は必死に説得した。
「開発者は説得に失敗したら、ヅラかるつもりです。僕を犠牲にして」
代弁機が答えた。
「俺が億万長者に?」
部長はその言葉だけに反応した。
ヅラかるという代弁機の声は入らなかったようだ。
「はい。億万長者になれば部長、楽しいセレブ生活が待っていますよ。殺人者として逮捕されるか、セレブ生活をするのか。部長、頭を冷やしてください」
「開発者にまだヅラかる気持ちがあります」
代弁機が声を続ける前に、開発者はスイッチを切った。
「俺がセレブに。そしたら金髪の」
部長は卑猥な眼を浮かべ、妄想に浸っているような顔をしていた。
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