1章 ついに誕生

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「あのう。その前に、部長、ちょっといいですか?」  開発者は言いにくそうに声をあげた。 「なんだ? 腹でも減ったのか?ここは貧乏研究所だ。予算は全部、研究費につぎ込んだ。飯代はないぞ」 「いえ、そうじゃくなくて。あのう言いにくいのですが、部長の頭から、髪が消えています。猫パンチのときに、爪が髪に引っ掛かったようです」  開発者は眼を点にしたまま、言いにくそうに答えた。 「なに?!」  驚いた部長は頭を触った。  年齢にしては、やけに髪がふさふさだった頭は、つるつるになっていた。 「俺のヅラが!」  驚いてすぐに周りを見ると、脂ぎった頭頂から解放されて、ほっとでもしたのか? かつらは床で、すやすや? と寝ていた。  部長は慌ててかつらを拾い、被りなおした。 「あのう、部長。かつらは前と後が逆じゃないですか?」  開発者はまた言いにくそうに指摘した。 「あ?」  部長は動揺した顔で髪を、いやかつらを整えていた。  整髪すると落ち着きを取り戻した部長の真っ赤だった顔は、怒りの表情になっていった。 「てめえら。口封じをしてやる!」  逆上した部長は側に置いてあった斧を掴んだ。 「部長は本気です」  代弁機が答えてきた。  手にした斧は、部長が外でまき割をしていたときの凶器、いや斧だ。原油高騰で燃費代を節約するため、この研究所では薪を使っていた。 「部長、落ち着いてください」  開発者は必死になだめようとした。 「いや許さん。おまえら、さっ処分してやる!」  部長は血走った眼で斧をもちあげた。 「部長は本気です。我々を殺害する気まんまんです」  代弁機が答えた。 「部長、落ち着いてください。この機器が全世界に売れれば、僕たちは巨万の富を得ることができます。部長も億万長者になれます」  開発者は必死に説得した。 「開発者は説得に失敗したら、ヅラかるつもりです。僕を犠牲にして」  代弁機が答えた。 「俺が億万長者に?」  部長はその言葉だけに反応した。  ヅラかるという代弁機の声は入らなかったようだ。 「はい。億万長者になれば部長、楽しいセレブ生活が待っていますよ。殺人者として逮捕されるか、セレブ生活をするのか。部長、頭を冷やしてください」 「開発者にまだヅラかる気持ちがあります」  代弁機が声を続ける前に、開発者はスイッチを切った。 「俺がセレブに。そしたら金髪の」  部長は卑猥な眼を浮かべ、妄想に浸っているような顔をしていた。
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