*仁科佳純*

2/6

21人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
 ***  傷の手当てを終え、契約を交わすと、カスミは怒った様子で事務所を出ていった。レオは途中まで送ると言ってカスミのあとを追った。。 「ねえ、あいつ、マジでムカつくんだけど! ひとが傷ついてんのに助けないなんてありえない!」  歩きながら、カスミはレオに不満を爆発させた。レオはカスミに同情的だったので、不満をぶつけても構わないと思っているのだろう。フォローは入れておいた方がいいと思い、追いかけてきて正解だった。 「レオさん、友達選んだ方がいいよ」 「いちおう雇い主なんだけど」 「あんな奴の下で働いているの? よく一緒にいられるね。絶対ブラックじゃん。パワハラとか酷そう」 「あー、まあな」  レオは困ったように頭を掻いた。当たらずとも遠からず。思い当たる点が多々あった。 「無茶ぶりは結構あるな」 「やめた方がいいって、絶対! ていうか、あいつの本業、占い師なんだよね? 当たるの?」 「当たるっつーか、星の動きを読んで、今日はこういう日だから、こうした方がいいってアドバイスする感じかな」 「それって占いなの?」  正直なところ、レオにもよくわからない。占っている姿を見たこともない。 「どうだろうな。本人が占いだって言うなら、そうなんじゃないか?」 「めっちゃ胡散臭い」 「否定はできねえ」  カスミは声を立てて笑った。 「レオさん、正直だね。嫌いじゃないかも」 「そりゃ、どうも」 「あ、ていうか、レオさんて本名じゃないよね? 本当は何ていうの?」  話題がころりと変わる。忙しない子だなと思った。 「それはヒミツなんだ。仕事に支障が出るからな」  レオというのはスピカに名付けられたビジネスネームだ。本名は別にある。 「ふーん、そういうもんなんだ」  聞いてきた割に、あまり興味はなさそうだ。しつこく聞かれるのも面倒なので、都合よかった。 「ねえ、レオさんだけで解決できない? あいつ、ひとりじゃ何もできないみたいなこと言ってたけど」 「そりゃ俺も同じだ。つーか、俺がいなくても、あいつひとりで解決できちまうケースもあるんだよ」 「え、じゃああいつ、あたしにウソ吐いたの?」  カスミは目を丸くし、ついで怒りを露わにした。レオは慌てて付け加えた。 「でも、俺がいる方が確実だし、効率がいいらしい」  話を聞くかぎり、今回の依頼内容であればスピカだけでも充分対応できるだろう。ただ、本人の性格に難があるため、レオがいた方がよりスムーズに進むのだ。 「よくわからないけど、依頼を受けてくれたんだから、何とかしてくれるんでしょ?」 「そりゃ当然だろ」 「なら、いいや。明日はお願いね!」  駅に着いた。別れ際、カスミはレオに手を振った。先ほどまでの怯えや怒りは消え失せたのか、にこにこと笑っている。すっかり解決した気になっているようだ。「おう、任せろ」とレオも手を振り返した。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加