*仁科佳純*

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 *** 「そういうわけで、お祓いをします!」  カラオケボックスにわざとらしいほど明るいカスミの声が響いた。 「何が、そういうわけなのよ」  ユリは不機嫌そうに尋ねた。アオイも来ていたが、耳を覆うように包帯が巻かれていた。痛かっただろうに、とわたしは思った。  カスミの隣には二人組の男がいた。少年めいた風体の男と、背が高く、厚みのある体格の男だ。 「はじめまして、スピカだ。こちらは助手のレオ。彼女からの依頼で除霊を執り行うこととなった。ついては君たちにも協力してほしい」  少年めいた風体の男がすらすらと淀みなく説明する。ユリはますます顔をしかめた。 「除霊って」 「あたしは本気だよ、ユリ」  カスミは絆創膏だらけの顔や腕を指して言った。 「あたしたち、マジであいつに狙われてるんだよ。このままだとスミレみたいに死んじゃうかも。そんなの、あたしイヤだもん」 「じゃあ、あんたたちだけでやればいいじゃない。バカらしい」 「ダメ。ユリもだよ」  ユリは、何故自分もなのかと訝しげに首を傾げた。カスミを睨みつけてさえいたが、ふだんはユリのご機嫌取りばかりのカスミも、今日ばかりは頑として譲らなかった。 「ユリも、一緒に遊んだでしょ? そのときのメンツが集まらないとダメなんだって」  カスミがちらりとスピカを一瞥する。スピカはゆるりと柔和な笑みを浮かべていた。けれど、目の奥は笑っていない。奇妙な男だ。近づきたくない。 「その通りだとも。でなければ、彼女は納得しない」 「納得しないって、意味わかんないんだけど」  ユリは嘲るように鼻で笑った。 「すでに死んでんのよ。納得も何もないじゃない。さっさと成仏させてよ。プロなんでしょ?」 「もちろんだとも。プロにはプロのやり方があるんだ。君たちにも従ってもらうよ」  スピカはユリに向かってにこりと微笑んだ。気品のある、隙のない完璧な微笑は有無を言わせなかった。ユリは不機嫌そうに顔を背けた。 「さて、関係者はこれで全員のようだね」  スピカがぐるりと室内を見渡す。苦味潰した表情のユリ、緊張した面持ちのカスミ、俯いたまま顔を上げようとしないアオイ、そして、わたし。  スピカと目が合った。スピカの口角がさらに上がる。優美な笑みはどこか人外めいている。  スピカこそ、本当に人なのだろうか。あまり、生きている人間という感じがしない。かといって、死んでいるというわけでもなく。なんというか、曖昧で、中途半端な存在だ。  琥珀色の目がわたしを見据えたまま、人差し指を自分の口の前に持っていく。黙っていろと言いたいらしい。  黙りたいのだけれど、どうやらわたしの口は壊れてしまったらしく、思考がダダ漏れになってしまうのだ。その声は気持ちが昂るほどに大きくなるようで、アオイが両手で耳を塞いでいる。  ああ、そんなに強く手を押しつけたら、怪我に障るだろうに。でも、いくら耳を傷つけようと、鼓膜を破ろうと、意味はない。だって、わたしの言葉は呪詛となり、あなたたちに降り注ぐのだから。聞こえようとも、聞こえなくとも、関係ない。わたしは、あなたたちを、「呪うわ」
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