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「そういうわけで、お祓いをします!」
カラオケボックスにわざとらしいほど明るいカスミの声が響いた。
「何が、そういうわけなのよ」
ユリは不機嫌そうに尋ねた。アオイも来ていたが、耳を覆うように包帯が巻かれていた。痛かっただろうに、とわたしは思った。
カスミの隣には二人組の男がいた。少年めいた風体の男と、背が高く、厚みのある体格の男だ。
「はじめまして、スピカだ。こちらは助手のレオ。彼女からの依頼で除霊を執り行うこととなった。ついては君たちにも協力してほしい」
少年めいた風体の男がすらすらと淀みなく説明する。ユリはますます顔をしかめた。
「除霊って」
「あたしは本気だよ、ユリ」
カスミは絆創膏だらけの顔や腕を指して言った。
「あたしたち、マジであいつに狙われてるんだよ。このままだとスミレみたいに死んじゃうかも。そんなの、あたしイヤだもん」
「じゃあ、あんたたちだけでやればいいじゃない。バカらしい」
「ダメ。ユリもだよ」
ユリは、何故自分もなのかと訝しげに首を傾げた。カスミを睨みつけてさえいたが、ふだんはユリのご機嫌取りばかりのカスミも、今日ばかりは頑として譲らなかった。
「ユリも、一緒に遊んだでしょ? そのときのメンツが集まらないとダメなんだって」
カスミがちらりとスピカを一瞥する。スピカはゆるりと柔和な笑みを浮かべていた。けれど、目の奥は笑っていない。奇妙な男だ。近づきたくない。
「その通りだとも。でなければ、彼女は納得しない」
「納得しないって、意味わかんないんだけど」
ユリは嘲るように鼻で笑った。
「すでに死んでんのよ。納得も何もないじゃない。さっさと成仏させてよ。プロなんでしょ?」
「もちろんだとも。プロにはプロのやり方があるんだ。君たちにも従ってもらうよ」
スピカはユリに向かってにこりと微笑んだ。気品のある、隙のない完璧な微笑は有無を言わせなかった。ユリは不機嫌そうに顔を背けた。
「さて、関係者はこれで全員のようだね」
スピカがぐるりと室内を見渡す。苦味潰した表情のユリ、緊張した面持ちのカスミ、俯いたまま顔を上げようとしないアオイ、そして、わたし。
スピカと目が合った。スピカの口角がさらに上がる。優美な笑みはどこか人外めいている。
スピカこそ、本当に人なのだろうか。あまり、生きている人間という感じがしない。かといって、死んでいるというわけでもなく。なんというか、曖昧で、中途半端な存在だ。
琥珀色の目がわたしを見据えたまま、人差し指を自分の口の前に持っていく。黙っていろと言いたいらしい。
黙りたいのだけれど、どうやらわたしの口は壊れてしまったらしく、思考がダダ漏れになってしまうのだ。その声は気持ちが昂るほどに大きくなるようで、アオイが両手で耳を塞いでいる。
ああ、そんなに強く手を押しつけたら、怪我に障るだろうに。でも、いくら耳を傷つけようと、鼓膜を破ろうと、意味はない。だって、わたしの言葉は呪詛となり、あなたたちに降り注ぐのだから。聞こえようとも、聞こえなくとも、関係ない。わたしは、あなたたちを、「呪うわ」
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