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翌朝、レオが目を覚ますと、スピカはすでに起きて紅茶を飲んでいた。いつ眠ったのかまったく気づかなかった。昨日とは服が違うので、一度自分の家に戻ったのかもしれない。
「おはよう。レオ、朝食にしよう」
「作るの、俺だけどな」
レオは欠伸を噛み締め、フライパンと卵を取り出した。
「朝の日課は終わったのか?」
「当然だ」
その日の星の動きを読むのがスピカの朝の日課だ。といっても、実際にどうやっているのか、見たことはない。「今日はどんな感じだ?」と問えば、「ごちゃごちゃした感じの日だね」とか「情熱が迸りそうな日だ」と返ってくる。抽象的で、よくわからない。レオは「ふうん」と頷くだけだった。
今朝も同じように問えば、「混乱が生じるかもね」と返ってきた。今日は逃がしてしまった彼女の除霊の続きを行う予定だ。あまり幸先のいい感じはしなかった。
「依頼の件、無事に終わればいいけどな」
言いながら、フライパンに卵を落とす。スピカは答えずにテレビをつけた。ニュース番組で、昨夜女子高校生が車にはねられて死亡したと流れた。
「マジか」
聞き覚えのある名前に、目玉焼きを焼いていたレオの手が止まった。焦げ臭い匂いに、慌てて火を止める。
「どうすんだよ。依頼主、死んじまったぞ」
目玉焼きを皿に移し、テレビを凝視しているスピカに尋ねる。「ああ、予想外の展開だ」と言いつつ、スピカは冷静だった。
「俺らがあいつを取り逃がしたせいだよな?」
もし交通事故に巻き込まれたのが除霊対象の仕業だとしたら、彼女の死の一端は自分たちにある。交通事故とはいえ、一連の出来事と関連がないとは思えなかった。
「さて……どうかな?」
スピカは神妙な面持ちで答えた。その冷静さに頭に血が上った。
「どうかなって……どう考えても俺たちのせいだろ! 俺があんとき箱を手放さなければ、あいつを除霊できてたはずだろ!」
「だが、彼女の凶行を止められたじゃないか。お前が彼女を取り押さえなければ、別の死者が出ていたかもしれないよ」
レオがカスミを止めなければ、ユリが殺されていたかもしれない。かといって、簡単に割り切れるものでもない。
「けどよ」
レオは視線を落とした。
「この仕事は常に死が纏わりつく。お前はいつまで経っても慣れないのだね」
「……人の死に、慣れることなんてあるかよ」
口を尖らせるレオに、スピカは肩を竦めてみせた。
「僕はお前のように嘆き悲しむことはない。せいぜい、してやられたなと憤るだけだ」
「だから、人でなしって言われんだよ」
「人でなしで結構。僕は依頼を遂行できればいいのだからね。それで、どうする?」
今度はスピカが尋ねてきた。「どうするって?」とレオは眉をひそめた。
「依頼主は死んでしまった。彼女を霊から守れなかったとあっては僕の名折れだ。今後の仕事にも支障が出る。せめて、除霊だけでも成功させなければ僕の気が済まない」
「もちろん、続けるに決まってんだろ」
「では、方向性が決まったところで、行こうか」
「おう! ……って、どこへ?」
「決まってるさ」
スピカはにっこりと笑い、電話をかけ始めた。
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