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次のターゲットは仁科佳純だ。主犯格である巳波侑里の取り巻きだ。ひとりではどうせ何もできない。そう侮っていた。
だが、カスミが霊能者に除霊を依頼したと聞き、わたしは激怒した。ミツルをこの世から追い払おうなんて許さない。復讐が終わっても、ミツルはわたしと一緒にいるのだから。
わたしは人形の中にあいつの名前を書いた紙を入れ、強く念じた。霊能者が本物かどうか知らないが、その前に殺してしまえばいいのだ。人形を握りしめ、念じれば念じるほど、ミツルが近くにいるような気がした。
ミツル、痛かったよね。苦しかったよね。わたしが仇を取るからね。
除霊が行われる日、わたしはカラオケボックスの近くにある喫茶店から、アオイたちを見張っていた。中に入って様子を伺いたかったけれど、わたしの存在がバレるとやりにくくなる。
たとえ除霊が成功したとしても、まだわたしがいる。わたしがミツルに代わってあいつらを殺せばいいのだ。
窓際から監視していると、仁科佳純が飛び出してきた。何故か顔や手足が傷だらけだった。まるで、鋭い刃物で切りつけられたかのようだ。
わたしはすぐに追いかけた。先回りして、あいつの前に姿を見せる。あいつはわたしに気づき、恐怖で顔を引き攣らせた。除霊が成功しようが失敗しようが、この顔は恐怖の対象だ。存分に恐れ、存分に泣き叫べばいい。
走り出すあいつを、わたしは追いかけた。途中、見失ってしまったけれど、すぐに見つけた。あいつは横断歩道の前で突っ立っていた。信号は赤だ。右方向からは一台の車がやってくる。
押せ、と声がした。そうだ、押せばいいのだ。わたしは啓示を受け取った預言者のような気分であいつに近づいた。
押せばいい、思いっきり。ほら、ぐんぐんと車が近づいてくる。
今がチャンスだ。
押せ、押せ、押せ!
わたしは両手を突き出し、あいつを突き飛ばした。あいつは前につんのめり、驚いたように振り返った。
わたしを見て、恐怖に染まる。だが、すぐに目の前から消えた。
あいつの体は車にはねられ、地面に叩きつけられた。ぐしゃ、と鈍く醜悪な音がする。慌てて運転手が降りてくる。わたしはすぐにその場から立ち去った。
手が震えていた。
殺して、しまった。
わたしが押したせいで。
木田澄玲の時とは違う。わたしが直接手を下した。
「ふふ、ふふふ、ふ……」
わたしは笑った。おかしくもない、かなしくもない、どんな感情なのかわからない。込み上げてくるまま、わたしは笑っていた。
ねえ、ミツル。わたし、ついに人を殺しちゃったわ。でも、いいの。ミツルのためだもの。ミツルもきっと喜んでくれるわよね?
わたしはポケットに忍ばせていた人形を握りしめた。木製の人形は、買った時よりずっしりと重みを増していた。
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