*木田澄玲*

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 ***  登校する生徒の波に逆らい、駅に向かう。寝不足でぼんやりした頭に、声はなおも響いている。けれど、私にはすべきことがわかっていた。逃げればいいのだ。あいつから。  駅に着いた。ちょうど電車がホームに入ってきた。大勢の人間が乗り降りする。私は乗らなかった。ホームのベンチに座り、何本か電車を見送る。朝のピークが過ぎると、駅にいる人間はまばらになった。  そろそろだろうか。  私はふらふらとホームの端まで歩いていった。もうすぐ電車が来る。飛び込んでしまえば、あいつの声は聞こえなくなる。姿も見えなくなるはずだ。  視線を感じた。見たくないのに、操られたように顔を上げる。  向かいのホームに、あいつがいた。学校の前にも現れたあいつ。どこまでも追いかけてくるつもりなのだ。  あいつは、私の後ろを指さした。反射的に振り向く。背後にも、あいつがいた。慌てて向かいのホームを見る。あいつは消えていた。 「どうして!? 何でいるのよ!」  私は半狂乱になって叫んだ。あいつが二人いる、ということなのか。  あいつが近づいてくる。じり、と後ろに下がる。また一歩、近づいてくる。 「言ったよね?」 「来ないで!」 「次は、スミレの番よ」  あいつははっきりと宣告する。  私は後ろに下がり……不意に体が浮いた。線路に落ちる。あいつは笑っていた。その口元には、あるべきものがなかった。 「あんた、誰な」  その瞬間、電車が入電してきた。強い衝撃が伝わり、手足がもげる。ぶつん、と事切れる最期の刹那、あいつの声を聞いた……気がした。 ――さようなら。  
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