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ちょうどいい距離感
「わあ、素敵です〜!」
そういえば久しぶりに見た女性だなあ─なんて、自分の事のように嬉しそうに俺(の髪型)を素敵だと言う美容院のお姉さんを見ながらふと思う。
心做しか少し顔が赤い気がする。熱あります??
「このスタイルだから化けるとは思ってたけど…こんなにもイケメンだったなんてっ」
「……あの?」
「っああ!すみません、ただのイケメン好きなのでお気になさらず!お会計はあちらになります」
「イケメ……?…はは、ありがとうございました」
どうやらかなり変わった人が俺の担当だったみたいだ。
美容院なんて初めて行ったけど、意外とスムーズに会計を済ませることが出来てすぐ建物を後にする。
一応美容院の鏡でどんな出来栄えなのか見させてもらったのだが、改めて美容院の窓から反射して見える自分の姿を見て笑う。え、これ俺?馬子にも衣装ってやつだよほんと。いかにもスポーツマンな短髪にしなくてよかった。ちょっとアイドルっぽいな。これなら平均的な顔を晒していても気にならないだろう、なんてたかを括って鼻歌交じりでスキップしながら寮に帰った俺でした。
「え、っあ!誰、えっ、もしかして小牧……?!」
「わー、なんか久々」
久しぶりに寮に帰ってきた。
最近は俺一人で親衛隊の仕事をこなしていたから、寮には帰らず学園で夜を越すことが多かったのだ。もちろんその間同室者とも会うことは無かったし、なんなら授業もサボっていたため同クラの連中とも会うのは明日が1週間ぶりと言ったところか。髪の毛がえらくさっぱりした俺を見て大きく目を見開いたのはその同室者─久留米唯斗(くるめ ゆいと)。友達なんか七宮しかいなーい、とか散々言ってたけどコイツに関しては割と仲良しだと俺は思っている。ただ、久留米とは此処でしか話さないし、なんなら同クラなのにクラスでは全く話さないし目も合わないので友達というのも変なのである。この関係が一体何なのか分からないが、俺も久留米も面倒事が嫌いなので例えモヤモヤはしていようがこのバッサリとした関係が丁度いい。
「は、ほんとに?」
「え?何が」
「ぅええっ……ほんとにあの小牧?」
「ああ、だいぶ変わったよねやっぱり。七宮に切って来いって言われてさ、まあ邪魔だったしいいかなって思って」
「整形した?」
「は?」
「いやごめん、うんそうだよな……」
いつも冷静な久留米が珍しく動揺している。うんうん。よし、これは……イメチェン、なかなか上手くいったのではなかろうか。逆のパターンもあるかもしれないがいちいちそんなことを気にしてはいられない。
「あーでも学校行きたくねーな…」
「……なんかあった?」
「ご名答」
「そんな台詞吐かれたら誰でもわかるでしょ」
「いやあのね、生徒会と色々ありまして」
「全部無視なの?…………あー、はいはい、そっかドンマイ」
「適当すぎて草」
久留米にまともな相談なんてするもんじゃないな。─ああ、学園内では話さないし目も合わない、なんて言ったから実は嫌な奴なのかと思っているのならそれは違う。さしてはコイツ、なんと親衛隊持ちのイケメンなのである。まあ極々平凡な俺と久留米サンが仲良くなんてしようものなら、久留米’s 親衛隊が黙ってない。それを分かっているから、俺にわざと話しかけずにいてくれているというわけだ。あら〜……優しいねお前。
「……あのさ、えっと、あのぉ」
「えっ何?久留米がそんな口吃るの珍しくない?」
「やっ、あのさ…………、これからは、此処じゃなくても…話しかけてもいいか?」
「親衛隊を使ってでも俺に嫌なことしたいの?」
「はあ?違うって………まさかお前無自覚か」
「あ、話しかけていいよ?俺打たれ慣れてるし」
「……」
会話が成り立っていないような気もするけど、久留米と話をするときにそれを気にしていられるほど俺は気長じゃないので。
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