Prolog

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「本日の親衛隊会議は以上です。」 そう、ほとんどが空席の目の前を見据えて言った男は、その素顔が自身の前髪が長すぎるせいで見えないのを良い事に、口元では笑みを浮かべながらも目では不機嫌さを顕にしていた。そんなことを知る由もない珍しい出席者たちは、ゾロゾロと会議室を後にしていく。やはりこの会議は参加者が少なすぎる。誰もいなくなった会議室。男が深いため息をついたことは、本人以外誰も知らない。 彼の名前は 小牧龍成(こまき りゅうせい)。身長は平均よりも少し高い程度で、身体はゴリラのようにガッチリとはしていないけれどもやしのようにヒョロヒョロでもなく、程よい筋肉がついている。それ以外に挙げる特徴は、──ない。彼には特徴がない。言ってしまえば地味な部類に入るのだろう。素顔は先程述べたように前髪で伺うことすら出来ず、結局のところ素顔を口元だけで判断することは出来ない為に謎多き存在だ。 そんな彼は役職持ちである。この学園で言うところの役職持ちとは、生徒会や風紀を始めとする崇められる存在なのだが、彼の場合は全くもって違う。 ───親衛隊隊長。 それが、彼の役職。 言わば、役職持ちの生徒会メンバー等を親衛するチーム。ここ─私立 亜衣寿(あいす)高等学園は、他校とは違った。生徒会は特別。生徒の方が教師よりも権限を持つことすらある。金持ちが創り出したこのしきたりは、月日が経つにつれて段々と暗黙のルールとなっていた。この学園で最も崇められる存在である生徒会長の親衛隊隊長が、小牧なのだ。そのため、自動的に親衛隊の中でいちばん権限を持つこととなった。結局のところ、成り行きはそれだけだった。 これは、そんな一見何も掴みどころがなさそうな親衛隊隊長─小牧龍成が、いつの間にか愛されることになった話。
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