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side 紫垣智史
分かった、と七宮結弦に告げた小牧は、その後気まずそうに部屋を後にした。
呆気にとられたままの生徒会。その中にはこうして語る俺も含まれているわけで。
「…………私たちが誤解していただけ、だったのでしょうか」
長い沈黙を破ったのは、澪。
酷く動揺した様子で、今にもわなわな震え出してしまいそうだった。
「だから言ってんじゃん。龍成ってばほんとに可哀想」
「っそんなの、アイツが何も言わないから───」
「チャラチャラ会計サン、本気で言ってんの?……はー、まあいいや。僕までこんな腐った空気に浸りたくないから帰るね。えっと、用があるって言うのはウソ。龍成が入ってくの見えたからさ?アンタらに龍成が虐められると僕がやだしってことで、……そんだけだから」
七宮結弦─副風紀委員長がそう言って出ていく。間も無く、バタンッ、と強いドアの閉音がする。
そしてまた、周りの空気がしんと静まり返った。
──いつからだ?
いつから、俺は罪もない奴を罵っていたのだろうか。いつもへらり、目元が隠れている故に口元しか窺えなかったが、笑みを浮かべていた俺の親衛隊長。やめろ、と何度も口にした。そんなときでもへらへらして、気に入らなかった。矢橋智耶から「仕事を押し付けられて困っている」という旨の相談をされた時、その思いは最大になった。ナオに制裁をして、挙句の果てに仕事も放ったらかしで。無責任で勝手な人間だと怒りを覚えた。でも、俺がこの目で見た訳では無い。確かにナオが制裁に遭ったと報せを受けて駆けつけると、いつも小牧はいた。だがそれは、──矢橋も同じだったのだ。七宮結弦の言う通りだった。俺は、俺たちは、知らぬうちに偏見の目で物を見ていただけだ。
「…………俺ら、さ。結局……智耶ちゃんに、良いように使われてただけってこと?」
「……矢橋にそうさせたのは、俺たちだ」
「会長…」
「俺は、……自分の親衛隊なのに管理しきれていなかった。善悪の区別も付けられないで偉ぶって、情けねェ」
「……っだーもうっ!なにしんみりしてんだよ気色悪ぃな!!」
反省会状態だった俺たちに、ずっと黙りだったナオが突如口を開くので思わず目を見開いた。そうか、居たのか。
最近はずっと俺たちと一緒で…気に入って傍に置いていたはずなのに、今ここにいることすら忘れてしまっていた。それくらい、衝撃が大きかったのだろうと自己解決する。
「俺だってアホじゃねえから分かるよ、オマエらが龍成のことを勝手に決めつけて傷付けてたんだろ?俺に言ってれば、すぐ解決してた事だけどな。むしろ俺に制裁したことない奴、智史のシンエータイの中だったら龍成ぐらいだっつの」
「……」
「あとこれ、さっき結弦が渡してきたんだけどよ!…………親衛隊活動報告書、って書いてあるぞ」
「…そ…れ、……!」
「あっ、ちょっ、遊音!」
遊音が半ば強引にナオから書類を奪う。
それを、俺を含む生徒会メンバーが覗き見る。
『僕、パソコンとか機械系超苦手なんですよねぇ』なんて笑っていた矢橋の顔が浮かぶ。そこに並んでいたのは、誤字などひとつも無い完璧な文章。制裁が多発している件について、自身の監督不足だと述べられていた。そして、最後には。
───“ 筆・親衛隊隊長 小牧 ”と、少し小さくしたフォントで載せられていた。
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