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…なんて上級生に脅されでもしたのだろう。
怯えと疑惑を孕んだ瞳が此方を見つめる。京介に寮まで送ってもらった後、こうして新入生と顔を合わせて正解だった。
無論、誤解を解くつもりはさらさらない。何故なら大凡真実なので。目的はしっかり他にある。
薄暗い中で目を凝らして一人一人の顔を確認する。そこにあの琥珀の瞳はなく、心の底から安堵した。緊張の糸が緩み肩の力が抜ける。
「牡丹、粗方の説明は終わったぞ。どうする?」
「適当に質問でも受け付けといて」
「了解。てことで質問あるヤツいるか」
おずおずと上がる質問に宵が答えて行くのを眺めながら一息吐いてティーカップを傾ける。紅茶の比率を多くしたミルクティーは案の定吐き気がするほど不味かった。
「…あの、八雲先輩に、質問良いですか…?」
唐突に呼ばれた己の苗字に視線を向ける。目があった少年は大袈裟なほど肩を震わせた。ずぶ濡れのチワワに似た動作に思わず揶揄いたくなる気持ちが疼く。
「いいよ。なんでも聞いて」
努めて柔らかい声を出せばパァ、と顔を輝かせた少年が人懐っこそうな笑顔を向けてくる。彼の中でがらりと劇的に変わったであろう印象とパラメータにバレぬようこっそりと薄く笑った。
背後の宵がクツクツと笑いを堪える音が聞える。下衆い。
「え、えっと、先程上級生の方から先輩の悪い噂…みたいなのを聞いたんですけど、嘘ですよね?弁明した方が良くないですか?」
「へぇ、因みにどんなことを聞いたの?」
「え!?え、っと、腹黒蛇ヤロウとか、調教サディストとか、」
「うんうん」
「冬将軍の女王様とか、わからせたいとか、」
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