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・閑話
その方を拝謁した時、確かに動くものがありました。わたくしは数少ない外部生で、学院に詳しく無いからかも知れません。いえ、外部生だからこそ、その空気の変動を肌で感じたのだと思います。
二階の中央、所詮桟敷席と言われる特等席に、彼はいました。瑠璃色の艶髪に気の強い三白眼。塵芥でも見るような冷たい瞳が確かにわたくしたちを見下しております。
彼が姿を表すと、其れ迄優しげに微笑んでいた彼が、恋する乙女のような眼差しを送っていた彼が、無関心そのものだった彼もが、恨みとも嫉みとも似つかない反抗的な光を宿したのです。
多くの嫌悪を向けられても尚、彼は見下すのを辞めず極め付けには小馬鹿にした嘲笑を漏らしました。
その、なんと艶美なことでしょう。
吊り上がった薄い唇から覗く真っ赤な舌が、細められる双眸が、反発心とも対抗心とも言える慾のような何かをわたくしに宿してしまったのです。
どす黒く醜い何かが腹の底で確かにぐるぐると渦巻きました。きっと、彼らと似たような感情を持ってしまったのでしょう。気づけばわたくしも似たように、二階へ睨みを利かせておりました。
「ご紹介に預かり、光栄だよ生徒会長」
小さな唇が紡ぐ音を、一音も逃さず聞き取る為に全神経を集中させます。無邪気な声色とは裏腹に、込められる皮肉と棘がぴりぴりと耳を刺激しました。
嗚呼、帝国よ。父よ。母よ。
申し訳ありません、わたくしはもう利口な息子では居られなくなる。
禁忌の扉が、絶対に開けてはイケない扉が、確かに開門いたしました。
(狂わされた新入生)
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