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「「あ」」
彼らの視線の先で、犬がジャンプした。
フラワーリースの輪に頭を通して、空中キャッチ。
「「ワーオ」」
感嘆する彼らに向かって、犬は一目散に駆け出した。
「え、待って」
「ちょっ、ちょっと!」
「おいおいっ」
「ねえ……!」
慌てる彼らの横を、しかし犬はするりと抜けていく。
「「……あ、あれ?」」
彼らが振り向くと、細身の男性が立っていた。
男性の足元では、犬がしっぽをブンブン振っている。
女性は頭に「?」を浮かべて、ぱちぱちと瞬きをした。彼は彼女の恋人だ。家で待っているはずの。
「私、また何か忘れたかしら」
「いいや」
そそっかしい女性を心配して見に来ただけの男性は、女性の問いに首を振ったが、手元のフラワーリースを見て「……いや、そうだね」と呟いた。
女性の前まで歩いてゆき、「はい、これ」と女性の頭にフラワーリースを被せた。
瞬間、花屋の少女が憤慨する。
「ねえ! 人のものを勝手にプレゼントにしないでよ! ドロボー!」
「これは失礼いたしました。レディ、こちらのフラワーリースをいただけますか?」
男性は膝をついて、少女の手を取った。
うっとり顔で「はい」と返事をする少女に、少年が慌てて間に入る。
「ちょっと……!」
市場に笑い声が咲いた。
春は気まぐれ。らら、うらら。
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