いたずらな風 春うらら

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 注文していた女性の指が下ろされた時、バッグにあとひとつ分の空きがあるのを確認した少年は、上目遣いで女性に話しかけた。 「お姉さん、お姉さん。オレンジもおすすめだよ。今朝、俺が作ったんだ。ほら見て! 上手にできてるでしょ?」 「ほんと、上手ね。じゃあ、それも」  女性の反応に気をよくした少年は、胸を張って得意満面に「お姉さんには、いちばん綺麗で大きいのをやるよ」と言った。 「ふふ、どうもありがとう」 「へへ」  少年はニヤケながら、フルーツサンドをバッグにぴっちり詰めて女性に手渡す。  お会計の途中、奥の女店主が座ったままで口を開いた。 「この子はまったく、だらしがないねえ。デレデレしてんじゃないよ」  言いながら、松葉杖で少年の足をぺしぺし叩く。 「ちょっと、計算に集中できないじゃんか。やめろよ、かあちゃん!」  少年が女店主と小競り合いをしながらおつりを用意していると、市場に突風が吹き、女性のマフラーを(さら)っていった。 「あ、待って!」  女性はマフラーを追って走り出す。 「お姉さん、ちょっと!」  女性におつりを渡し損ねた少年が、硬貨を握って女性を追った。
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