3人が本棚に入れています
本棚に追加
注文していた女性の指が下ろされた時、バッグにあとひとつ分の空きがあるのを確認した少年は、上目遣いで女性に話しかけた。
「お姉さん、お姉さん。オレンジもおすすめだよ。今朝、俺が作ったんだ。ほら見て! 上手にできてるでしょ?」
「ほんと、上手ね。じゃあ、それも」
女性の反応に気をよくした少年は、胸を張って得意満面に「お姉さんには、いちばん綺麗で大きいのをやるよ」と言った。
「ふふ、どうもありがとう」
「へへ」
少年はニヤケながら、フルーツサンドをバッグにぴっちり詰めて女性に手渡す。
お会計の途中、奥の女店主が座ったままで口を開いた。
「この子はまったく、だらしがないねえ。デレデレしてんじゃないよ」
言いながら、松葉杖で少年の足をぺしぺし叩く。
「ちょっと、計算に集中できないじゃんか。やめろよ、かあちゃん!」
少年が女店主と小競り合いをしながらおつりを用意していると、市場に突風が吹き、女性のマフラーを攫っていった。
「あ、待って!」
女性はマフラーを追って走り出す。
「お姉さん、ちょっと!」
女性におつりを渡し損ねた少年が、硬貨を握って女性を追った。
最初のコメントを投稿しよう!