いたずらな風 春うらら

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 さて、彼らは街を走って走って――丘を越え、橋を渡り、時計塔のある広場に出た。  犬は広場の中を駆け回る。 「待って!」 「ちょっと!」 「おーい!」 「ねえ!」  広場に人が溜まっていく。 「あれ? おじさん、どこー?」 「すみませ――おっと、失礼。人違いでした」 「くそっ、見失っちまった!」 「ああ、お嬢さん待って! ちょい、道開けて!」  人々は、息を整えながら目的の相手を探した。互いに肩を叩き、顔を見ては首を振る。  そうしている内、気づけば彼らはフォークダンスを始めていた。  人を上手く回すのに、フォークダンスはうってつけなのだ。 「あ、あなた。はい、ボタン」 「やや、どうも」 「お嬢さん。ほら、風船」 「ありがとう!」  彼らが続々と目的を果たす(かたわ)ら、踊りに無関心な犬は、人々のクルクル踊る足元をすり抜けて広場を出ていった。   「あ、待って!」  女性は犬を追って走り出す。  おつりをまだ渡せていない少年が、それに気づいて声を上げる。 「お姉さん、ちょっと!」 「ねえ」  女性を追おうとする少年を、ダンスのパートナーが止めた。花屋の少女だ。 「おつりなら、また今度渡せば?」 「え、でも――」 「いいからっ。今は踊りましょ」 「あー……うん!」  彼らはフォークダンスを続けた。  土曜日の早朝、春うらら。
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