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消えない記憶
「もう朝…」
目覚まし時計が鳴るより早く目が覚めた俺は、ふとカレンダーを見た。
「一昨日と昨日は学校行ったしな…今日は仮病使うか…」
俺は高校生2年生になってもクラスに馴染めていないこともあり、時々仮病で学校を休んでいる。
母さんはもしかしたら気付いているのかもしれないが、仕事が忙しいのか、それとも俺がクラスに馴染めていないのを知っているのか、基本的に休ませてくれる。
「春樹〜そろそろ起きなさい」
中々起きる気になれず、ベッドから出ないでいたら母さんが部屋に入ってきた。
「ごめん、今日は体調悪いから休みたいんだけど…」
「あら、お母さん今から仕事行くけど、一人で大丈夫?」
「うん…」
「わかったわ。何かあったら連絡してね。」
そう言って母さんは部屋から出て行った。
先生から休みが多いことを指摘されることもあるが、出席日数は足りるようにしているし、成績もそこまで悪くはないからあまり問題はない。
「高校で思い出を作れ〜なんて言われるけど…もう思い出なんて作りたくないんだよな…」
俺が時々仮病を使うのには、ある理由がある。
俺は約千年前の、前世の記憶が残っている。
何回も生まれ変わって様々な人生を送った記憶がいつまでも消えない。
今とは違う、全く別の人間として生きた記憶、死ぬ時の記憶がいつまでも残っているなんて、正直苦痛でしかない。今、一ノ瀬春樹として生きているこの記憶も残ってしまう。
だから出来るだけ思い出なんて作りたくない。何の思い出も作らなければ、覚えていてもそこまで苦痛ではない。
「一体いつまで続くんだろうな…」
学校を休んだ日は適当に暇潰しをして一日が過ぎることが多い。
早速俺はベッドの横にあった本を読み始めた。
「すみませーん!」
本を読み始めてしばらく経った時、玄関のほうから大声が聞こえた。
本に集中していてインターフォンの音に気付かなかったが、誰か来ていたらしい。
「はーい…」
渋々玄関に歩いて行ってドアを開けると、どこかで見たことのある女子が立っていた。
「あの、一ノ瀬春樹さんに渡したいものがあるんですけど…」
「…春樹は俺だけど…」
「…あっ!そうなんですね!すみません、私部活の後輩の白池 南(しらいけ みなみ)です!部活でコンクールに関するプリントを届けるよう先生に言われたので…」
「あぁ、そういえばコンクールもうすぐだったね。ありがとう」
見たことがあると思ったら、美術部の後輩だった。家が近いからなのだろうか、プリントを届けに来てくれたらしい。
「すみません、何度か会っているはずなのに顔を覚えていなくて…」
「いや、俺もインターフォンの音に気づかなくてごめんな」
「いえいえ!ではまた明日!」
そう言うと彼女は走って家に帰って行った。
俺は渡されたプリントに目を通した。
「コンクールについて」と書かれたプリントには〆切日とコンクールの絵の題材が書かれていた。
俺はコンクールの絵のこと、そして白池の「また明日!」という言葉のことを思い出した。
「…明日は学校行かないとな…」
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