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一瞬の違和感
「やめて…私は彼と生きていくって決めたの…!」
「そんな事を許すわけがないだろう!いい加減目を覚ませ!」
目の前に言い争う男女がいた。俺は女の恋人で、女の父親がそれを許さない状況らしい。
俺はこの状況を理解できずにただ立ち尽くしていた。
「私は絶対に…きゃっ!」
(……!!)
突然男が女を突き飛ばした。その先には数メートルの高さがあり、まず無傷では済まないだろう。
俺はとっさに手を伸ばしたが、間に合うはずもない。女の名前を叫ぼうとしたが、何故か声が出ない。
(何故だ…!?思い出せない…!)
(君は…誰…)
「……はっ!夢か……って寝坊した!?」
「…なんだ、今日土曜日じゃん…」
目覚まし時計の音で俺は目を覚ました。
時計を見るともう9時で一瞬焦ったが、今日が休みの日だということに気がついてホッとした。
「何だったんだ…今の夢…」
普段はあまり夢を見ないはずが、奇妙な夢を見て目覚めは最悪だ。
「…急に人と関わったからかな…」
まるで現実のように感じたが、俺は気にしないことにした。
前世の記憶ならもっと鮮明に覚えているはずだと自分に言い聞かせて、朝食を食べるためリビングへと向かった。
「そうだ、休みだしノートとか買いに行くか」
いつも休みの日は寝るか本を読むくらいだったが今日はそういう気分でも無く俺は近くの文房具屋に向かった。
「いらっしゃいませ〜」
近くの文房具屋に入ると、ノートのコーナーに行った。ノートは部活で使っている物なので選ぶのに時間はかからなかった。
「次は鉛筆か…」
そろそろ鉛筆も買わないといけないことを思い出して、鉛筆のコーナーに向かった。
「ん?あれ…白池か?」
鉛筆のコーナーに行くと、鉛筆を選んでいる白池の姿が見えた。
「おーい、白池も鉛筆を買いに来たのか?」
俺は白池に話しかけた。昨日みたいに元気に返事をしてくるかと思っていたが、白池の反応は違った。
「……?」
白池は不思議そうにこちらを一瞬見て、ポケットから取り出したメモ帳をパラパラとめくり出した。
「…白池?」
「…あっ!一ノ瀬先輩!先輩も鉛筆を買いに来たんですね」
「え、まぁそうだけど…」
(白池…一瞬俺に気付いていなかったのか…?)
話しかけた後の一瞬の間に多少の違和感は感じたが、そこからの白池の様子は昨日と変わらなかったため、俺はそこまで気にしないことにした。
「そうだ、先輩!今から暇ですか?」
「え?暇だけど…」
「じゃあコンクールも近いので桜木公園で絵描きませんか?よかったらアドバイスとかして欲しいんですけど…」
白池の言った事に俺は驚いた。昨日も行ったのにまた誘ってくるということは白池は昨日のことを忘れているのかと思い、聞くことにした。
「…昨日も行ったけどいいのか?」
「……あれ?そうでしたっけ」
「…ま、まぁ先輩がいいなら行きましょう!」
「じゃあ行くか…」
(俺そんなに印象に残らなかったのか?)
「先輩、ここってどうやって描きますか?」
「これはもうちょっと線を濃くしたほうがいいんじゃないかな」
「なるほど!ありがとうございます!」
「………」
最初は白池の記憶力の問題かと思ったが、白池は明らかに昨日話したことや描いたことを忘れている。流石におかしいと思い、俺は白池に聞いてみることにした。
「白池、昨日のこと覚えてるか?」
「…!えっと…その…」
「白池、もしかしてお前…昨日のこと全部忘れてるんじゃ…」
「………はい…」
やはり白池は昨日の記憶を全部無くしていた。何かが原因で記憶を無くしているとすると、俺のことを覚えていないのかもしれない。記憶喪失だろうか?
「もしかして記憶」
「あのっ!!」
「うわっ!な、なんだ?」
突然の大声に驚いたが、白池が何かを言おうとしているのはわかったので、俺は真剣に聞くことにした。
「…あまり言いたくはなかったんですけど、」
「私、実は…」
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