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僕のいるパーティーメンバーは有名な人たちだ。
パーティーリーダーのヴィルは勇者の末裔で全てに秀でている。特に料理スキルがすごい。毎回、美味しいご飯を作ってくれて僕たちの胃を鷲掴みにした。
次に光魔法を得意とする後方支援型の魔術師アイリスは、見目麗しい絶世の美少女で怪我をするといつも優しく治してくれる。最近はポーション作りにはまっている。
それから素早く鋭い攻撃を繰り出し、苦戦している僕のところへ誰よりも早く駆けつけ一緒に戦ってくれる格闘家の青嵐せいらん。食べられる野草に詳しく、アイテム鑑定もできるすごい人だ。
そして昔とある国の騎士団に所属していたらしい剣士のシヴァは、常に冷静で回りを気にしながらも確実に敵を倒す縁の下の力持ちのような人。僕はシヴァが騎士団に所属していたことに関しては、シヴァが話してくれたこと以外は深く聞かないようにした。知られたくないことがあるかもしれないし。あと情報収集やアイテム交換などの交渉に長けている。魚を捌くのがすごく上手。
最後に僕。非力弱者の申し子。みんなと同じくらい敵を倒しても経験値が全く入らない。経験値の入りがしょっぱい。得意なことと言ってもいいのかわからないけど、いろいろな種族の人の言葉や作法を知ってて、防御魔法がそこそこ使える。料理は煮物が作れる。実はヴィルの最初の仲間だったりする。
そのパーティーで五年旅をしてきた。
弱くて頼りない自分から脱したくて、陰で鍛えたりしたけど全く成長できなかった。だからいつもみんなに助けてもらって、みんなに守ってもらってる。
申し訳なさからどんどん気持ちが焦るのに、どんなことをやっても全く入らない経験値。
弱い、ということのつけがここできただけだ。
「……」
ソファに座るヴィル。その左側にある小さな椅子に座るアイリス。青嵐とシヴァはヴィルの後ろに立っていて。僕は扉を後ろにヴィルたちと向き合っている。
ああ、ついに来てしまったんだな……。
「これから向かう大陸は今までの大陸とは違う。今までより強い敵や毒性が高すぎる毒草に痺れ草もある。だから今までより命が危うくなるだろう」
「うん」
「だからお前をこのパーティー……」
ドロドロとした空気。
みんなから刺さる視線。
寂しいな。僕はみんなが好きだから。でも強くない僕を連れて行くのは邪魔だろう。
もっと頑張ればよかった。
もっと自分を追い込めばよかった。
結局は自分に甘かった己の責任。恨むなら自分自身を恨め。僕よ。
「わかったか?」
「うん」
「いや、わかってないな。お前、俺の話をちゃんと聞いてなかっただろ」
「え? ちゃんと聞いてたよ。僕をパーティーから外すって……」
ことでしょうと言いかけて口を閉じる。
みんなが目を点にして僕を見たから。
「はあ? どうして俺がお前をパーティーから外すって話になるんだよ」
「だって僕は弱いし、みんなに守ってもらってばかりだから」
「だから?」
「え?」
「だから俺がお前をパーティーから外すって?」
「うん……」
「はあ。お前、俺たちのこと嫌いか?」
ヴィルは大きなため息のあと僕にそう問いかけてきた。
「好きだよ。みんなすごくかっこいいし、可愛いと思う。それにみんなと一緒に旅をするの好きだし、ご飯をみんなで食べるのも好き。それから……」
みんなの好きなところがたくさんあるから全部言いたくて言葉を並べていく。するとヴィルが「だあああああああ! ストップだ! ストップ! お前ちょっとお口チャック!」と叫ぶように僕に言った。だから一度口を閉じる。まだ半分も言えていないのに。
僕の言葉にヴィルとアイリス、それから青嵐とシヴァの全員が頬を赤らめている。まるで照れているみたいだ。そんなわけはないと思うけど。それでもそうであったら嬉しい。
「ヴィ……」
「お口チャック!」
「……」
勢いよく言われ、もう一度口を閉じる。
「ふ、ふふ……」
可愛い声の笑い声が聞こえ、アイリスを見るとかたかたと肩を震わせていた。そしてヴィルの後ろにいる青嵐とシヴァも僕から顔を背けて目を閉じ肩を震わせていた。
「アイリス。落ち着くんだ」
「シヴァ。あなたも落ち着いたほうがいいですよ」
「いやもうこれは俺たち全員落ち着いたほうがいい。深呼吸しようぜ。深呼吸」
「そうですね。深呼吸しましょう」
みんな声が震えているし、笑いが隠せていない。
僕は何か笑われるようなことを言ってしまっただろうか。いや、言っていないはず。うん。言ってない。
「ヴィル。私たちは少し廊下に出てきます。深呼吸して落ち着いたらすぐに戻りますので」
「ちょっと待て。今この状況でシオンと二人にされたら照れ死ぬぞ」
「それ言ったら俺たちもだから」
「もうこの際全員道連れで照れ死のうと思う。だから俺はこの手を離さない」
「嫌ですよ。放してください。それになんですか。照れ死のうって。私たちはまだシオンと旅をしたいので生きます」
「ヴィル。時として諦めは肝心だ。だから今すぐアイリスと青嵐の腕から手を放すんだ」
「無理。絶対無理。シヴァを道連れにできなくてもこの二人は道連れにする」
「……」
ヴィルがアイリスの左腕と青嵐の右腕を掴み、二人の腕を掴んでいるヴィルの手をシヴァが後ろから掴むという不思議な光景が僕の目の前にある。
なんだろう。この目の前に広がる光景は……。すごくおかしな光景になってるし、なんなら僕の存在を忘れてる気がする。
「わかりました。そこまで仰るなら、シオンに決めてもらいましょう。誰と話したいか」
アイリスのその言葉に迷わず「みんなと話したい」と返す。するとみんな手で顔を覆い天を仰いだ。ただヴィルだけは満面の笑みを浮かべつつ、悪い顔をしていた。
「よーし、お前たちみんなさっきの位置に戻れ」
「嬉しそうだな。ヴィル」
「みんなまとめて照れ死にだ」
「……恥ずかしい」
「大丈夫だ。俺も恥ずかしい」
「右に同じく」
「あの、ごめん。みんなに聞いてもいい?」
「どうぞ」
「みんなが僕のこと好きか嫌いか教えてほしいんだ。なんと言うか嫌われてもいないけど、好かれてもいないような気がして。はっきりみんなの気持ちが知りたいんだ。最後だし」
「は? 好きですけど何か?」
「ヴィル。あなたはなんで喧嘩腰なんですか。シオン、私たちはみんなあなたが好きですよ」
「そうそう。好きじゃなきゃ五年も一緒に旅してないって」
「アイリスと青嵐の言葉通りだ。私たちは君と一緒に旅に出て利益があるからといって一緒に旅ができるほど器用ではないからな」
「そうだぞ! それに俺の見る目は確かだからな! お前とパーティーを組んで後悔してないのが証拠だ!」
「……ありがとう。すごく嬉しいよ」
「あと! 今回の話はお前をパーティーから外すって話じゃなくて! お前のレベルを上げようと思うって話をしようとしてたんだがいたっ! 青嵐! 突然何するんだよ!」
「悪い。思いのまま話に割り込もうとしたら勢いよく当たった。シオン。今話したかったのはヴィルが言った通りレベル上げの話だ。それを話すのにヴィルが真面目に話したいっていうから付き合ったら、立ち位置とか指示されてその通りにやったらなんか怖い雰囲気になってるし。その雰囲気にやられて俺自身すごく緊張してくるしで話に入れなくてな。この十分足らずで新たな自分を発見した」
「私もですよ。まさか緊張に飲まれるとは思ってなかったです。それに何よりヴィルの話し出しが回りくどいと思いますよ。そのせいでシオンの顔がどんどん暗くなっていくし、私たちも内心とてもはらはらしてるのに声が出ないしで大混乱でした」
「挙げ句にはそれに焦ったヴィルが君に私たちのことが好きなのか聞くしで、いったい何がしたかったのかわからなくなっていた」
「……」
「仕方ないだろ! だって俺が話し出したら空気が重くなってくし、なんかシオンは俯いてるし! 俺は頑張りました!」
ヴィルはそう言うと魔法で水とコップを取り出し勢いよく飲んだ。
まるでやけ酒をする居酒屋のおじさんのような姿に体から力が抜ける。
「つまり僕はパーティーから外れなくていいってことだよね……?」
確認するとみんな何度も頷く。
「強くなれば危険度が低くなるし、それにできることが増える。そう言うわけで俺は最近いろいろな闘技場に行って経験値アップアイテムを手に入れまくりました!」
「青嵐。あなた巷では闘技場荒らしと噂されてましたよ。暫く出禁でしょうね。私は経験値十倍ポーションと能力上限解放ポーションの開発をしてました。そして両方とも完成しました。能力上限解放ポーションに関しては全員分ありますよ。あとで飲みましょうね」
「私は情報収集とアイテム交換をして、情報に関してはあまりいい成果はなかったがアイテムは良いものが手に入った」
「っ……ありがとう! みんな! 僕、強くなるから! 絶対みんなに心配かけないくらい強くなるから! 本当にありがとう!」
みんなの優しさにぶわっと涙が溢れてくる。絶対強くなる。みんなの優しさにちゃんと答えるんだ。
「あっ!」
「ヴィル。どうしました?」
「シオン! お前がどう思ってるかわからないけど! 俺たちはお前に助けられたことが多々あるからな! 例えばお前の言語能力やその種族特有の作法を知ってくれていたおかけで助かったし! ダンジョンとかで不意打ち攻撃されたときとか防御魔法で守ってくれて無傷だったりな!」
満面の笑みでそう言ってくれるヴィル。その言葉に頷くアイリスと青嵐にシヴァ。
僕はその言葉が嬉しくて、強くなるための力が沸いてくる。
「それから! 俺たちももっと強くなる! そうしたら足りないところを今より補い合うことができるし! 何よりパーティーだからな! みんなで一緒に頑張ろうな!」
「うん! 本当にみんなありがとう!」
必ず強くなるんだ。そしてみんなの優しさに応える。
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