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話し合いが終わってからすぐヴィルが鍛えの賢者の元まで連れていってくれて、そこで鍛えの賢者が作ったダンジョンに各々入ることになった。
「あの日から五日間。僕のレベルは一しか上がってない」
なんでたろう。かなりの数のモンスターを倒したはずなんだけどな。あ、でも前よりは経験値が入るのが多い気がする。
「ちょおおおおおっと待て! 待て待て待て! お主! レベルの上がり方が少なすぎじゃないか!? おかしくないか!? おかしいじゃろう!」
「っ……!」
突然壁から鍛えの賢者の顔が出てきて心臓が出かけた僕は、右手で心臓辺りに手をやる。どっどっどっ、と激しく動く心臓。僕は驚きすぎて声が出なかったんだけど、それに気づかなかったのか鍛えの賢者は一息に話した。
「え!? なんでじゃ!? 儂の作り方がおかしかったのか!? いやいやそんなはずは……だって他の者達はもう四十レベルくらい上がっておるしのう」
四十レベルということは今みんなのレベルは九十レベルくらいかな。すごいなあ。これはどこの大陸に行っても無敵な感じがする。それに引き替え僕は十三レベルか……。
遠い目になってしまう。このままじゃみんなの優しさを無駄にしてしまう。
「お主! 何もせずちょっと待っておれ! 知識の賢者を呼んでくるからのう!」
そう言うと鍛えの賢者はピュンとどこかへ行ってしまった。そしてすぐに帰ってきてまた壁から生えているみたいな状態になる鍛えの賢者と、ちゃんと僕の前に立ってくれている知識の賢者という不思議な構図になった。
「きーちゃんから聞いたけど、お前さんレベルが上がらないそうじゃの?」
「はい」
「うーむ。儂に出生を教えてもらえんかのう?」
「はい。僕は大きな川から流れてきたところを両親が助けてくれて、そこから愛情をたっぷりもらって育ちました」
「……」
「……」
「あ、祖父母からも愛情をたっぷりもらいました」
「え? ちょっと待って。川から流れてきた? ちーちゃん。今この子川から流れてきたって言った?」
「言ったのう。言った」
あれ。なんだろう。この雰囲気。何か変なこと言ったかな。
「お主の両親は、お主が川から流れてきたところを救って育てたのか?」
「はい。両親に聞いたらそう言っていました。それから母が「大丈夫! 母さんね元の世界でそういう感じの本読んだことあるし! なんとかなると思ってたから! それに母さんもお父さんもシオンのこと大好きだから!」と言っていました」
「あれ? きーちゃん。もしかしてこの子の母親は異世界から来た人間じゃないか」
「そうじゃのう。間違いなく異世界から来た人間じゃ」
「もう儂は何がなんだかわからなくなってしまったんじゃが……」
「儂もじゃ。まさかこういう話を聞くとは思っておらんかったからのう。心構えができておらんかったから、ダメージが大きい」
鍛えの賢者と知識の賢者が二人して頭を抱え悩み始めてしまった。
なんだか申し訳ないことしてしまった。
「とりあえずお主の正体がなんとなくわからなかったから……助っ人としてとある人物を呼んでくるでのう」
「ちょっと待っておれ」
そう言って鍛えの賢者と知識の賢者はどこかへ行ってしまった。
気のせいじゃなきゃ、なんだか僕のせいで大事になっていってる気がする。
「まさかレベルが上がらないだけでこんなことになるなんて思わなかったな……」
僕は顔を上げて、ダンジョンの壁を見つめた。
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