余命半年前

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余命半年前

「残念ながら……。 貴女の余命は残りわずかです」 そう医師に宣告されたとき、私の視界は真っ暗になったかのように思えた。 末期がん、だそうだ。 別に、これまでの47年間、人生が1度も楽しくなかったとは思わない。 むしろ、人よりも楽しんできたのではないかと思う。 仕事は少し辛かったが、嫌と言うほどではなかった。 「おかえり、母さん ……病院、どうだった?」 心残りはただひとつ。 娘の成人式を見れないことだ。 娘は、亡くなった夫とのたったひとりの子供だ。 彼女は、夫に似て真っ直ぐな子に育ってくれた。 だからこそ、少し心配なところもある。 だから、成人式を見れば1つの節目を迎えてくれれば安心できると思ってたのに……。 もう少しだけ生きられれば、娘の成人式を見れたのに……。 でも、娘を心配させる事は出来ない。 彼女は大学という人生の最高潮を楽しんでいる最中なのだ。 私のせいで、その笑顔に影を落としたくない。 だから、私は嘘を付いた。 「大丈夫だったわよ。 腫瘍は、悪い腫瘍じゃなくて良い腫瘍だったって」 そう言うと、娘は明らかに安心した顔を見せる。 「よかった……。 母さんには私がお母さんになるまで生きててほしいから」 そう娘は言ってくる。 何と言う親孝行者なのでしょう。 私は、思わず娘を抱き締める。 「ちょっ……母さん、どうしたの?」 「ううん。 貴女は、本当にいい子に育ったなぁ、って……」 私がそう言うと、娘は誇らしげに 「当たり前でしょ。 母さんと父さんの娘なんだから」 と言う。 本当に、本当に出来すぎた娘を持ってしまった。
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