幼い奴隷

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幼い奴隷

 アムとポッシェは、カジノやナイトクラブの立ち並ぶフロアを奥へと向かった。一番奥の大きな扉を開くと、そこはプロレスの会場のようだった。会場の中央には、檻で囲まれたリングが設置されていた。アムとポッシェが会場に一歩踏み入れると、カチャンという金属音がし、スポットライトの眩しい光がアムの目をさした。アムは、思わず、右手で光を遮った。と、アナウンスの声が聞こえてきた。 「みなさん、お待たせいたしました。さあ、勇者の登場だ」  アムは、ソッと額から手をのけた。そして、目を細めてみると、リングの前に黒い燕尾服に蝶ネクタイをした一人の男がスポットライトを背に立って、こちらを見つめていた。気がつくと、アムたちはスポットライトを浴び、リングへと向かう花道に立っていた。 「さあ、行くぞ」とポッシェがアムを促した。  アムと、ポッシェは花道をリングへと向かって歩き始めた。アムは歩きながら会場の中をぐるりと見回してみた。広い客席には誰一人としていなかった。 「勇気ある若者よ。闘いの場へようこそ」  ガランとした会場の中に蝶ネクタイの男の笑っているような声だけが響いた。 「お前の対戦者はここだ」  蝶ネクタイの男がそう言うと、男の横にスポットライトが当たり、三体のロボットが現れた。一体は図体がでかくて屈強そうな男の剣士、もう一体は精悍な顔に締まったボディをした長身の女の剣士、そしてもう一体はピーターパンのような恰好をした小さな男の子だった。 「さあ、挑戦者よ。どの剣士との闘いを望む?」  アムが戸惑っていると、ポッシェがアムに囁いた。 「この三体の戦闘用ロボットの中から、お前が闘う相手を選ぶんだ。もし、お前が勝ったらお前は大金を手にすることができる。負けたら、記念品しかもらえない」 「あんたは何をする?」とアムはポッシェに訊いた。 「観客は、ロボットあるいは挑戦者の人間にお金を賭けることができる。私は、観客としてお前にありったけの金をかける。絶対に負けるなよ」 「勝てるかな……」 「心配するな。相手は見てきた通り、バグのポンコツだ。自爆する。お前なら絶対に負けない」  ポッシェはアムが、深夜の繁華街の裏道で三人の屈強な男たちに囲まれたが、ぞうさも無く倒したのを見ていた。それでアムをこの仕事に誘ったのだった。 「わかった。では、どいつとやろうかな」  そう言って、アムはグッとこぶしを握った。  三体ともジッと固まって表情もピクリともしていなかった。ただうつろに正面を見つめているだけだった。  と、突然、屈強な男の剣士が動き、剣を抜くと、振り回して言った。 「小僧。おれが相手してやる。お前なんか、一ひねりだ」 「何だとッ」とアムはカッとして、男へ向かおうとした。しかし、ポッシェがそれを制した。 「挑発に乗るな。一番弱いロボットを選ぶんだ」  アムが他の二体へ目をやると、また、屈強な男が言った。 「どうした小僧。そんなにおれ様が怖いのか」 「口先だけさ」と、アムがそれを無視し、他の二体を見ていると、女剣士が動いた。女剣士は、剣を胸の前に水平に掲げた。 「女だからって、甘く見るなよ。お前なんて、なますにしてやるから。やるんなら覚悟してきな」  次に、アムは一番端の男の子へ目をやった。  男の子はアムを見ると、おびえたような表情をして言った。 「ぼ、ぼくは、無理やりここへ連れて来られたんです。お願いです。ぼくを選ばないで。僕は生まれてから一度も、闘ったことはないんです」  アムが当惑すると、横で腕を組んで立っていたポッシェが冷徹に言った。 「一番、弱そうなやつを選ぶんだ。わかってるな」 「お、お願い……。ぼくを選ばないで。ぼくは闘いたくない」と男の子は涙目でアムを見つめ、首を静かにふった。 「さあ、誰を選びますか?」と蝶ネクタイの男が言った。  アムは、胸の中に滞る罪悪感を押さえて、おびえた表情の男の子を静かに指さした。 「挑戦者の対戦相手はアグー君に決まりました。両者の検討を祈ります」 「くそっ、こんな小さな子を選ぶなんて、ひどいやつだ」と女剣士が横目でアムをにらんだ。 「こいつは臆病なんだよ」と男の剣士が投げ捨てるように言った。  アムの胸にそれらの言葉が胸に刺さった。しかし、ポッシェがすかさず言った。 「かまうな。こいつらに倒された人間は何人もいる」 「この中から、お好きな武器アイテムを二点お選び下さい」と蝶ネクタイの男が言った。  リングの脇に武器アイテムが置かれた台が据えてあった。台には、剣、刀や槍、盾、兜、鎖鎌などおどろおどろしい武器が並べられていた。小瓶に入れられた液体や小さな杖など魔法アイテムらしきものもあった。アムはその中から諸刃の剣を手に取り、サッと刃を抜いた、それから刃が毀れてないか入念に眺めてから、刃の切れ味を確かめるかのように刀をブン回して空を幾度か切った。 「武器はこれだけでいい。アグーだって短剣を一本腰に差してるだけだ」  そう言ってアムは剣を腰に差した。 「他に武器を隠し持ってるかもしれない。もう一つ、武器を持っていけ」とポッシェが言った。 「どうせ相手は子供だ」 「甘く見るな」 「わかったよ」  そう言ってアムは台の上をもう一度見回した。と、小さな蜂タイプの妖精が目に入った。 「こいつは何の役に立つのかな」とアムはその妖精を手にとると、まじまじと眺めてから、何の気なしに、それをポケットにしまった。 「二点、選ばれましたか」 「ああ」と憂鬱そうに返事をしてから、アムは檻に囲まれたリングの中に入った。後から、おずおずとアグーが入ってきた。ガチャンと檻の扉が閉じられた。  アムは剣を抜いた。
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