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ガラガラのショッピングモール
華やかなショッピングモールの通路が、アムとポッシェが立っているところからずっと先の方まで続いていた。
アムは十代後半の、暇そうに街でうろついている感じの少年だ。ポッシェはぴっちりしたパンツにタイトな革の上着を着た、細身で長身の女だった。紫の短髪の下の目は怜悧な光を帯びていて、身も軽そうだった。歳は三十代半ばぐらい。
アムもポッシェもあだ名だ。二人は互いにあだ名で呼び合い、互いに本名を知らなかった。非合法な世界に生きるポッシェ、そしてこれから非合法の世界に生きようとするアムの二人にはその方が都合がいいからだ。
ショッピングモールの両側にはブティックやレストラン、コーヒーショップなどの店が並び、店先のショーウィンドウには商品が綺麗に飾られていた。一面の白い床は、吹き抜けの天井のシャンデリアの光を反射しキラキラと輝いていた。ショッピングモール中央の広場と名付けられた場所には白亜の噴水があり、ときおり思い出したかのように水を勢いよく噴き上げていた。
モールにはゆったりとした歩くリズムに合わせた音楽が流れていた。しかし、アムが、真っ黒な髪の下の大きな黒目がちの目でショッピングモールを見回すと、どこか違和感を感じた。アムはすぐに違和感の正体に気づいた。
「お客が一人もいないぜ。夜の7時だっていうのに。店もちゃんと開いてるし、店員もいるんだろ」
「ああ、ちゃんとどの店も営業してる。半年前にこのショッピングモールが開店した当初は買い物客やデートする若者たちでにぎわっていた」とポッシェが答えた。
「それが、半年もたたないうちにこんな閑古鳥が鳴いているのか……。この統合型リゾートの経営者がよっぽど無能なのか? たしかここはアメジア・グループの経営だったな」
「無能……、まあ、そんなところだ。理由はそのうちわかる」
「こんなところに、本当にあんたが言うような一晩で大金が稼げる場所があるのか?」
「それがあるんだ。……もうすぐここはつぶれる。この数か月、客が一人もこないっていう話だからな。それで、つぶれる前に合法的に、大金をいただくっていう算段さ」
「合法的ねえ……。日本中の警察がやっきになって捕まえようとしている有名な盗賊のあんたには一番似つかわしくない言葉さ」とアムは横目で、常に相手よりも進んだテクノロジーを駆使して警察や警備の手をすり抜け、次々と有名な宝物や大金を盗んでいくポッシェを見て、ため息をついた。
「心配するな、本当に合法なんだから。心配だったら、あたしたちがこれからやろうとしてることを東京都の公安委員に違法かどうか問い合わせてみな。何にも言えないはずさ。国会で承認されたことなんだ。そもそも、このIR施設は政府の鳴り物入りで開業したんだ」
「国会で承認ねえ……。わかった。あんたを信じることにするよ」
「それはそうとあんたのその恰好のままだと、後でドレスコードに引っかかるかもしれない。服を新調していこう」
そう言って、ポッシェは、だぶだぶの上着にワークパンツというアムの恰好をジロジロと眺めた。
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