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七話目
「要は東高行くの?」
この辺で一番偏差値の高い男子高。俺との三者面談では、冗談でも出てこないが、きっと要は勧められている。要くらいしか入れないと思うし。
「……まだ、決めてない」
返事に少し間が空いた。
「ふーん……」
「素彦は?」
「俺もっ、まだ決めてない」
お前と違って選択肢は狭いけどな。
小学生の時から要は勉強が出来た。中学に入ってからは要の背中も見えないほど差が開いて、今も更新中。
高校は別々になるのは確実だ。よっちゃんとは一緒だろうな、でも、愛の力で早坂さんと同じ高校行きたいとかなったら、どうなるだろ。一気にやる気スイッチ入りそうだし。
俺はどうなるだろ。
サッカー意外で、どうやったらやる気スイッチ入るかなぁ。
「もう由延、帰ったんじゃないか」
言いながら窓際に近づいて外を見る。
校舎の中庭にはもう誰もいない。
みんな帰って明日のテスト勉強してるかな。
俺は。
「……もう少しだけ、いる、いいか」
バケツの中のメダカに目を向けた。
さっきと同じポジションをキープ。
浮いてこないから生きてるのがわかる。
いや、生きてるよな、こいつら?
「……………………」
要は何も話さない。
「ほら、今日のよっちゃん。すげーしつこいから、どっかに隠れてるかも」
あんまり待たせると早坂さん達が先に帰るだろうけど。
そんなの知るか。
俺を餌にするな、よっちゃんのくせに。
要からの返答待ちなのに、何も言ってこない。
「きゃなめ……」
変な緊張感がとまっていた汗を、またかかせようとする。
何か考えてそうな横顔をチラッと見た。
同じタイミングで目が合う。
何だよ。
要が制服のポケットに手を入れて、
「じゃあ、鍵、頼んでいいか?」
と、鍵を手渡そうとする。
おいおいっ。
思ってたのと違う答えが返ってきて、咄嗟に、
「いやいや、鍵の場所知らねぇし、あっああ、そうだ明日のテスト範囲だけど……」
帰ろうとする要を引き留めた。
バケツの底で漂うように泳ぐメダカ達は、いつ餌に気づくだろう。
よっちゃんから微妙な笑顔付きのメッセージが届いた。
早坂さん達に怒られたけど、一緒には帰れたそうだ。
ごめんな、よっちゃん。
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