〜弟〜

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〜弟〜

   アトリエには俺と父と多くの動物たちがいる。 今日も俺は死体にメスを入れ、親父は別の死体に 綿を詰める。 親父曰く、この仕事は『生き返らせる』仕事。 簡単に言えば俺も親父も動物たちの剥製を作るのを 生業にしているのだ。『アトリエライリー』と言えばこの業界ではかなり有名で国内外問わず多くの依頼が押し寄せてくる。 ペットのリスや二メートルをゆうに超えるような熊 だって俺たちは作ってきた。熊の時なんかは依頼人の子供が怖すぎて漏らしちまったぐらいだ。そんな偉大な剥製職人である親父とその跡取り息子の俺で今日も彼らを『生き返らせる』 「もうそろそろスタンリーさんのところがモリ―を 迎えに来るけど、お前は作業を続けといてくれ」  はいはい。といいコマドリの上腕にメスを入れる。モリ―とは、近所のスタンリーさんの愛犬でよく散歩している姿を見かけたものだ。死んでしまった時は 悲しみに暮れていたが、モリ―が死んだ時は剥製に すると彼は決めていたようでその日のうちに 受け取った。  しばらく二人で作業を続けているとアトリエのドアベルがカランコロンッと音を鳴らす。 「やあ、スタンリーさん。       すぐにモリ―を連れてくるよ」 「ああ、ライリー。ありがとう。  ここで待っているよ。テオも変わらず元気かい?」 「おう、元気でやってるよ」  作業をいったん止めて軽く左手をあげる。 「作業中に悪いね」「なあに、気にしなさんな」    スタンリーさんはアトリエを一通り見渡している。 「これは何て言う動物なんだ? 見たことがないが」 「それはオオウミガラスだったかな? もう絶滅した動物なんだってさ。博物館からの依頼だよ」  その剥製を食い入るように見ながら 「こいつはすごいなぁ」とスタンリーさんは漏らす。 「そこのアカギツネは俺が一人で作ったんだぜ」 「おぉ。これはいいなぁ。固まっているのが不自然なくらいリアルだ」  その言葉を聞いて腹の底から喜びが湧き出てくる。『固まってるのが不自然なくらい』だってよ。そりゃあいいや。まじまじと俺の剥製を見てくれている事に少しの気恥ずかしさを感じながらも喜びに浸っていると別の部屋からモリ―を連れた親父が出てきた。 「モリィー!」  スタンリーさんはモリ―の姿を見た瞬間、一目散にモリ―の方に駆け寄った。あふれる涙を拭くことを忘れモリ―を持ち上げる。 「モリ―が! モリ―が生きてる!               生き返ったぁ!」 「そう言ってもらえて嬉しいです。そうですね。               モリ―は生きてます」  スタンリーさんは、子供のように泣きじゃくりながらも、ありがとう。ありがとう。と何度もつぶやいた。  しばらく泣いていたスタンリーさんだが、少しずつ流れる涙は落ち着いていき、二度三度涙を拭うと立ち上がり 「ライリー。テオ。本当にありがとう。感謝してもしきれないよ。さすが世界一の剝製職人だよ」 「いえいえ、世界一だなんてそんな。しかし、喜んでもらえて本当に良かったです」 「いいや、あんたは最高の剝製職人さ! そして優秀な跡取り息子もいる。これからも 頑張ってくれ。本当にありがとうな」  そう言って去っていった。
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