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リアルで小説を書いている人に遭遇した経験はない。物語を書くのが好きですと自己紹介して意気投合することは少ないだろう。
書くことを意識したのは些細なことがきっかけだった。もうずいぶん昔のことなのに鮮明に覚えている。
小学三年生の国語の授業で先生に読書感想文を褒められた。
「松下さんの書いた『ヘレンケラー』の感想文が、読書感想文コンクールの学年代表に選ばれました。よく書けていたわ」
「は、はい。ありがとうございます」
クラスメートから大きな拍手がおきた。人より勉強や運動ができるわけでもなかったから、注目を浴びることに戸惑った。
ホームルームが終わると、普段ほとんど話さないようなクラスメートも私の席の周りに集まってくる。喜びより緊張が強かった。
「やすこちゃん、すごーい」
たまにお話する子が讃えてくれた。
「おれ知ってる。こういうの文才があるっているんだろう」
「○○って物知り~」
「今のお気持ちは?」
ふざけて、男子がインタビューするようにペンケースを私の口元に向ける。
「嬉しいです」
おずおずと答えた。
「以上松下さんのコメントでした」
ませた男子が締めくくる。十分休憩が終わってみんなが散っていくとホッとした。
私の感想文は佳作をとって、地方の新聞に掲載された。両親も祖父母も喜んだ。文章を使って主張したり感情を表現することにいつしか夢中になっていった。
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