2人が本棚に入れています
本棚に追加
***
「急募、サンタさんをぶっ飛ばす方法」
「待て待て待て待て」
昼の、ナナちゃんが小学校に行っていて両親が会社に行っている時間が、ぼくにとって自由に動き回れる時間だ。とことこおもちゃ箱の仲間の元に歩いて行って、一言。据わった眼で告げたぼくに、ヒーロー人形のおもちゃである通称“レッドマン”は、景気よくツッコミを入れてくれた。
「とりあえず落ち着けルー。ヒーローとして、なんかものすごく看過できない言葉が聞こえたぞ!?サンタさんもある意味子どもたちみんなのヒーローみたいなものだろう。ぶっとばしちゃまずい。大いにまずい」
「え、じゃあサンタさんからプレゼントを強奪する方法にする……それならいい?」
「何でそれでOKが出ると思った!?」
レッドマン、は昔ながらのぼくの友達だ。元々はナナちゃんのお兄ちゃんが大好きだった某戦隊ヒーローの人形で、今でこそお兄ちゃんと遊ぶ機会は減ったものの、今でもコレクションとして大切にされているもののひとつである。まあ、お兄ちゃんが幼稚園児だった頃からあるので、ちょっと齧られて塗装が剥げた箇所があったりなかったりもするのだが。
ゆえに、何か悩み事があるとぼくは真っ先にレッドマンに相談することが多い。
今回も、どうにか宥められたところで落ち着いて事情を話すと、彼は“あー”とどこか遠い目で告げたのだった。
「つまり、新しいクマのぬいぐるみをナナちゃんが欲しがってる。イコール古いクマのぬいぐるみのお前は捨てられるんじゃないか、と」
「うん。だってちょいちょい、ここが汚れてるとかボロくなってきたとか言われるしぃ……!」
「そりゃしょうがないだろ。ナナちゃんが赤ちゃんの時からいるんだぞオマエ。ボロくなるのは自然の摂理だ」
「そりゃそうだけどお……!」
もちろん、ぼくだってわかっている。
ぼくがシミだらけになったのは、幼いころからナナちゃんがぼくを抱きしめて眠ったせい。その涎やら、食べ物のカスやらがたっぷりしみついちゃったせいだ。赤ちゃんの頃なんぞ、面白半分に投げられることも少なくなかったので、腕が取れそうになったこともあるし目玉が実際取れて付け直して貰ったこともある(そしてナナちゃんのお母さんはお裁縫が上手ではないので、ぼくの左目は右目よりちょっとズレたところに縫い付けられてしまったりしている)。
ぼくがボロボロになったのは、ようするにそれだけナナちゃんに遊んでもらったゆえの勲章のようなもの。新品のまま、埃を被っていくおもちゃやぬいぐるみが多い中、ぼくは買われた直後からたくさん遊んで貰って可愛がってもらったのだ。それは充分誇るべきことだろう。
そう、誇らしい気持ちもちゃんとある、あるにはある。でも。
「……大人になったら、飽きて捨てられちゃうかもな、くらいには思ってたんだよ。というか、ナナちゃんが中学生、高校生になったら忘れられちゃうかもしれないな……くらいは」
最初のコメントを投稿しよう!